老人と海

<The Old Man and the Sea>  (58年)

<スタッフ>
製作
 監督
原作
 脚色
撮影
美術

作曲・指揮
編集

<キャスト>
老人
少年
コーヒー店主

リーランド・へイワード
ジョン・スタージェス
アーネスト・ヘミングウェイ
ピーター・ビアテル
ジェイムス・ウォン・ホウ
アート・ローエル
エドワード・キャリア
ディミトリイ・ティオムキン
アーサー・P・シュミット


スペンサー・トレイシー
フェリパ・パゾス
ハリイ・ベラヴァー
 「老人と海」は1952年に書かれ、その年のビューリツァ賞を受け、翌53年にノーベル文学賞を 受賞したアーネスト・ヘミングウェイの名著である。
 ヘミングウェイは現代アメリカ文学を代表する文豪で、 「武器よさらば」(2回映画化、第1回邦題「戦場よさらば」フランク・ボザーギ監督、ゲーリー・クーパー主演。 第2回目はチャールス・ビダー監督、ロック・ハドソン主演)、
「持つもの持たざるもの」(邦題「脱出」ハワード・ホークス監督、ハンフリー・ボガート主演)、
「誰が為に鐘は鳴る」(サム・ウッド監督、ゲーリー・クーパー、イングリッド・バーグマン主演)、
「殺人者」(ロバート・シオドマーク監督、バート・ランカスター主演)、
「マコーマーの短い幸福な生涯」(邦題「マコーマー事件」ゾルダン・コルダ監督、グレゴリー・ペック主演)、
「わが老人」(邦題「さすらいの涯」ジン・ネグレスコ監督、ジョン・ガーフィールド主演)、
「キリマンジャロの雪」(ヘンリー・キング監督、グレゴリー・ペック主演)、
「陽はまた昇る」(ヘンリー・キング監督、タイロン・パワー主演)
と既に映画化されたものは枚挙にいとまがない程だが、 この「老人と海」も出版早々文壇の騒然たる話題をまき、それと並行しつつ映画化が激烈になったものを、 ワーナー・ブラザースが他社をおさえてやっと銀幕化にこぎつけたものである。
 だがこの小説の映画化は並大抵なことではない。これまでヘミングウェイの小説は、専ら人間の行動に重 きを置いて展開される特徴がある故に、スクリーン化に好都合とされていたのが.「老人と海」の場合は現 代詩にプロテストした散文詩で、その上、主人公がたった1人の老漁師と1匹の魚にすぎないのだ。そして 話の裏に秘するのは人生の喜怒哀楽という映画化には非常に難しいものなのである。だが遂にその大冒険は 遂行された。
 意欲的なワーナー・ブラザース映画会社をバックボーンに「ミスタア・ロバーツ」「翼よ!あれが巴里の灯 だ」を仕上げた、ハリウッドきっての進歩的製作者、ソーランド・へイワードがプロデュースに当った。 そして監督に「OK牧場の決斗」の巨匠ジョン・スタージェスを招致、脚本、撮影にべテランのピーター・ビア テル、そして撮影に「ピクニック」の鬼才ジェイムス・ウォン・ホウを当て、又音楽部門を「ジャイアンツ」 の重厚ディミトリイ・ティオムキンが受持って、灼熱の地キューバ、コヒマル湾一体で延々2ヵ月に亘って 撮影を強行、その間ヘミングウェイ
も現地に駆けつけて助言を与えるなど、スタッフは一心同体となってこの野心作の製作に身をそゝいだ。 そして不僥不屈な孤独の老人に「山」以来風格を増してきた名優スペンサー・トレーシーが扮し、 もう一人の重要な役である少年には、全くの新人であるフェリペ・パゾスが選出されて、 トレーシーと共に出色の出来ばえを示している。

 <物語>  彼は年をとっていた。メキシコ湾流に小舟を浮べ、ひとりで魚をとって日を送る漁師だが、一匹も釣れな い日がもう84日も続いている。はじめのうちは少年がひとりついていたが、不漁が40日も続くと、両 親のいいつけで別のポートに乗り組んでしまった。海と同じ色をたたえた瞳、やせこけた手足、深い皺の刻 み込まれた首筋、彼の舟の帆そっくりにつぎはぎだらけのシャツ。しかし少年は老人が好きだ。5つの時、 生まれて初めて彼を漁に連れてってくれたのはこの老人だった。お爺さんは世界一の漁師だと彼は考える。 だから、一緒に漁に出かけられない代りに何かで役に立ちたい。明日の餌魚にする鰯や、今夜の晩御飯を揃 えてやろう。
 少年が帰ってしまうと老人は直ぐ眠りに落ちた。アフリカの夢をみた。この頃は毎晩だ。金色に輝く砂浜、 白い海岸。もう昔のように暴風雨や女や腕くらぺや死んだ妻の夢はみない。その代り海岸で戯れるライオン の夢をみる。老人はその姿を愛した。いま、あの少年を愛しているように――。ふと老人は眼をさますと、 少年を起すために小道を上っていった。月はもうすっかり山の彼方に沈んでしまって、朝の近寄る気配。 足の真に小砂利まじりの砂を感じながら、老人と少年は小舟を水の中へ押し出した。彼は今日は遠出をするつ もりだった。
 明るくなる前に、老人はもう餌のついた4本の綱を水中に下してしまっていた。そして汐の流れに舟をま かせきっていた。引き綱の端は輪に結んで棒にかけてある。魚が餌に喰いつけば棒がぐっと傾く仕掛けだ。
 太陽が随分高くなった。一緒に舟出した漁船は、それぞれ魚を求めてばらばらに散ってしまった。 ふと空を仰ぐと、鳥が輪を描いて舞っている。「やつら、魚の大群を見つけたな」――彼は思わず声を出して言った。 何時ごろから、こんあ大声で独り言を言うようになったんだろう。あの少年が彼を去ってしまってからか、 はっきり思い出せない。昔は独りでいる時は歌をうたったものだった。
 緑色の棒がひとつぐっと傾く。「よし」――老人は呟く。網に手をのばし、右手の親指と人差し指で やわらかくそれを押さえた。すると又ぐっと来た。・・・    (86分)

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