白 鯨

<Moby Dick>  (56年)

<スタッフ>
製作・監督
原作
 脚色

撮影
美術
音楽

<キャスト>
エイハブ船長
イシュメール
スターバック
ブーマー船長
マップル神父

ジョン・ヒューストン
ハーマン・メルヴィル
レイ・ブラットバリイ
ジョン・ヒューストン
オスワルド・モリス
ラルフ・ブリントン
ラッセル・ロイド


グレゴリー・ペック
リチャード・ベースハート
レオ・ゲン
ジェイムス・ロバートスン・ジャスティス
(特別出演)オースン・ウエルズ
「白鯨」はアメリカの文豪ハーマン・メルヴィルの著した不朽の名作である。 格調の高い文体で書かれた雄大で男性的な海洋文学であり、世界にこれに類するものはないといっても 過言ではなく、あるいは、これを一つの叙事詩とも、又アメリカの国民文学とも呼べるものである。
 プロデューサーでもあるジョン・ヒューストンは、このメルヴィルの名篇を映画化するに当たり、 実に135章からなる原作を12回も飽かずに読み返し出来得るだけ原作通りに映画化しょうと努力した。 そしてこの作品は3年の日子と18億円の巨費に、ヒューストンの努力が結晶して見事な名品となったのである。
 監督はハードボイルドなリアリズム手法で注口されているジョン・ヒューストン。米最優秀作家の1人である 「原子怪獣現る」のレイ・ブラットバリイがジョン・ヒューストンと共同で脚色し、 色彩映画の権威として高名ある「赤い風車」「しのび逢い」等を手がけた、名手オスワルド・モリスが 撮影監督をつとめた。 色彩設計にはスワルド・モリスとジョン・ヒューストンが2人で辺り、「邪魔者は殺せ」「バラントレイ卿」の 俊腕ラルフ・ブリントンが美術監督として招かれた。
 主役の偏執狂的なエイハブ船長には、最も理想的な二枚目スターであるグレゴリー・ペックが選ばれた。 これでエイハブは三代目、往年のジョン・バリモアにより26年に「海に怪獣」、30年に「海の巨人」が発表されている。
 共演は「暁前の決断」「善人は若死にする」のリチャード・ベースハート、「赤いベレー」「チャタレイ夫人の恋人」の レオ・ゲン、「ピラミッド」「豪族の砦」のジェイムス・ロバートスン・ジャスティス、等々英米映画、演劇、テレビ界の等の 一流俳優陣が網羅されている。
 更に目玉が飛び出すような、高い出演料で迎えられた「マクベス」「第三の男」のオースン・ウェルズが特別出演している。
 最大の難事でもあり、最も注目された事は、並はずれた巨体、真っ白でシワだらけの額、無気味ゾピラミッド型の 白コブ、奇怪な形の下アゴ″と原作にある白鯨をどうして撮るかということであった。 結局、英国の海洋学者で鯨研究のオーソリティでもあるロバート・クラークが招かれ、 大は長さ66フィート、重さ18トン、1万1千ドルを費したものから中小さまざまな白鯨のモデルが造られ、 銛が打ち込まれた時に血(油性化学薬品を混ぜたアナリン染料)が吹き出るようにまで工夫された。
 <物語>  時は1841年。所は当時の北アメリカ捕鯨業の中心地マサチューセッツ州ニュー・ベドフ ォード。海にあこがれを求めて、ふらりとこの港へやって来た風来坊のイシュメールは、 驟雨に見舞われ、今夜の宿を探すべく歩を早めた。懐中には僅かに、2、3枚の銀貨が淋しく入って いるだけだ。
 ふと足を停めた店の看板が、捕鯨館ピーター・コフィーン(棺桶)" 。縁起でもな いと思ったが、彼は扉を押して入ってみた。同室ならば、空席があるというので、宿をとるこ とにしたが、ところが泊ってみて驚いた。同室の銛打ちのクィークエグというのが、身体一面刺 青だらけの蛮人で、奇型のパイプを肌身はなさず持ち歩き、真夜中に奇妙な木彫人形をうやう やしく拝んだりする。これはたまらんと恐ろしくなったが、一晩同じベットに寝てみると案外 の善人で、すっかり2人は肝胆相照らす仲となった。
 翌日イシュメールは教会で、昔銛師だっ たというマップル神父のお説教を傾聴した後、見すぼらしい姿のエリジャーのの警告にも臆せず 老朽捕鯨船ピークォド号の乗組月に傭われることになった。この船の船長の名はエイハブ。抹 香鯨の骨で作った義足は、歩く度にまるで棺桶のふたを叩きつけるような無気味な音を船中に 響かせ、顔面に走る鉛色の青い傷痕は深い悲しみに充ちた表情をむしろ陰惨なものに仕立てて いる。
 しかし彼が一たび甲板に立って船首の彼方を真直に睨む時、前方に釘付けされた恐れを知らぬ眼差には、 王者の威厳が溢れて物言わぬうちに周囲を圧し、故知らぬ不安で人々を慄え上がらせた。何者かに憑かれているかのようだった。 それは以前の航海でモビイ・ディックと呼ばれている白い鯨に片足をもぎ一取られて以来のことである。
 今度の航海も彼にとっては、ただ白鯨への復讐のためのみの船出であった。だが、彼が時々、一人で船長室に閉じこもって、 矢印だらけの海図の上にのしかかり、他の捕鯨船からの報告や、海流の流れなども綜合研究をしながら、 喰い入る様な瞳で白い鯨の行方を辿っているとは誰も知らない。だから、彼がある朝、全員を船尾に集めて、 狂暴な復讐の喜びに頬を輝かせ乍ら、こう宣言した時は、七つの海を渡り歩き、海の野獣と幾度組み打ちしたかも知れぬ、 気の荒いことでは人後に落ちぬこの世界中からのごろつきどもの集りも、さすがにみんな驚いたようだった。・・・
    (116分)

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