駅馬車

<Stagecoach>   (39年)

<スタッフ>
製作
監督
原作
脚色
撮影
音楽

<キャスト>
リンゴ・キッド
ダラス
医師ブーン
ハットフィールド
バック

ウォルター・ウェンジャー
ジョン・フォード
アーネスト・ヘイコックス
ダッドリー・ニコルズ
バート・グレノン
ポリス・モロス


ジョン・ウェイン
クレア・トレバー
トマス・ミッチェル
ジョン・キャラダイン
アンディ・ディバイン
 「駅馬車」が西部劇史上、不朽の名作なことは改めていうまでもない。実際、 この映画ほど何べんみても、おもしろく、興奮させられる。 これほど西部劇の醍醐味を満喫させてくれる映画はない。というのも、「駅馬車」には、 西部劇のすべての要素を全部もりこんでしかもぬきさしならぬ見事な構成と、緩急の妙をえた演出により、 まさに西部劇の範をなすものだからである。
 原作は西部小説の第一人者として知られるアーネスト・ヘイコックスが1937年に 「コリアーズ」誌に発表した「ローズバーグ行駅馬車」Stage to Lordsburg で、 大体の筋立ては映画とほとんどおなじだが、ダッドリー・ニコルズはこのストーリーの人物のひとりひとりに 劇的な肉づけを与え、さらにその人物から派生した原作にない劇的シチュエーションを多くもりこんで、 素晴しい集団劇としているのである。ヘイコックスの小説もかなりよく書けたもので、 西部をつっ走る一台の駅馬車のなかに開拓時代の西部とそこに生きる人間の種々相を、簡潔な筆致で鮮やかに 描きだしたものである。われわれはその描写の行間に西部への想像の羽根をはばたかせたくなるような短篇であった。 ニコルズは、そういうわれわれの想像力を満足させるような人物と事件の設定の肉づけを、その見事な構成のなかに 見せているのである。
 このニコルズの脚本を得てのジョン・フォードの演出がまた絶妙の一語に尽きるといってよい。 フォードの演出は現在の彼の作品にくらべると、はるかに早いペースでてきぱきとはこばれる。 現在のリアリズム化したものや、最近のフォード作品に見られる低徊趣味のスロウ・テンポな演出になれた眼には、 おそろしく早く感じられよう。これは、映画の表現というものが、この映画がつくられた1939年と現在では ずいぶんちがっているためでもあり、そういう点では、「駅馬車」という作品は、 歴史的時間の座標のうえにおいてH見る必要もあるだろう。
 しかし、ジェロニモの出現を報ずる何気ないプロローグから、乗客が駅馬車に乗りこみ、 ドライ・フォークの中継所までで、大体登場人物の説明を終え、アパッチ・ウェルズでのルシーの出産という 人間的なドラマを挿入し、ここから急激にクライマックスのアパッチの襲撃と、ローズバーグでのリンゴ・キッドと プラマー兄弟の果し合いに至る、これだけ多くの要素を1時間36分という作品に 盛りこんでいるということは、いかに無駄のない演出をしているかということを示してもいるのである。映画のつ
くりかたがちがうとはいえ、 この映画を見ると、現在の映画が不必要に細密描写に走って、テンポがのぴ、必要以上に無駄にフィルムを つかっている映画がいかに多いかということを感じさせずにはおかない。
 この映画でジョン・フォードの演出が見せた、ダイナミックなエネルギーの奔騰とスピードは、 永遠にたたえられるべき彼の映画精神の精華というべきであろう。それは、 ひとつの完成された美ともいうべきものである。出演者も精選されており、ジョン・フォードは、 これらの俳優を一糸乱れぬ統率力で、西部に生きた人間群像を描きだしているのである。 その驚嘆に値いする構成と描写の正確さによって、「駅馬車」は西部劇の古典的名作であるばかりでなく、 映画史上のベスト・ピクチュアとしての地位を占めているのである。

 <梗概>  アリゾナ州トントの町にある守備隊の屯所には、「アパッチ蜂起」「ジェロニモ扇動す」などの急報が 次々と入電された。そのうちにどこかで電線が切られたのか、電信がぷっつり途絶えた。 そのとき、1台の六頭立ての馬車が砂塵をたてて町へすべり込んで来た。これは東部から大陸横断して、 西はニュー・メキシコのローズバーグへ走る駅馬車で、トントは乗り継ぎ地に当っていた。
 馬車は町で馬を替えると、ふたたび西に馬首を向けた。馭者のパックは大男のくせに臆病者で、 ジェロニモの襲撃や無法者リンゴ・キッド破獄の報せを開いて気がすすまなかったが、警護に同乗していた マーシャルのカーリーに叱られ、しぶしぶ出発することになった。カーリーは、リンゴ・キッドが必らず ローズバーグのプラマー一家に親兄弟の仇討ちをかけると睨んで、逮捕に赴こうとしていた。
 馬車の乗客は5人。東から乗り継いで来たのは、守備隊にいる夫を訪ねてバージニアから身重の体で急ぐ大尉夫人 ルシーと、カンサスから来た酒商人ピーコックの2人で、あとの3人はトントから乗り込んだ。 飲んだくれの医師ブーン、素姓の知れぬ酒場女ダラス、このふたりは町の婦人矯風会から追放され、 西へ落ちるより仕方なかった。もう1人のハットフィールドという紳士態のやせた男は、 南部の名門から身を持ち崩した賭博師で、淑やかな南部の人妻ルシーに惹かれて馬車に乗込んだのだ。・・・  (96分)

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