バージニア・ウルフなんかこわくない

<Who's Afraid of Virginia Woolf?>   (66年)

<スタッフ>
製作
監督
原作
脚本
撮影
装飾
音楽

<キャスト>
マーサ
ジョージ
ニックジョージ・シーガル
ハニー

アーネスト・リーマン
マイク・ニコルス
エドワード・アルビー
アーネスト・リーマン
ハスケル・ウェクスラー
リチャード・シルバート
アレックス・ノース


エリザベス・テーラー
リチャード・バートン
ジョージ・シーガル
サンディ・デニス
 世界一の美女として、ここ十数年ハリウッドに若き女王の地位を誇ってきたエリザベス・テーラーが、 中年の醜い幻滅をむき出しにした女に扮して、"彼女のキャリアはじまって以来最高…" とまで絶讃されたほどの 一世一代の名演をお目にかける新作である。
 中年の大学教授夫婦が、一夜若い助教授夫婦を招いてパーティをもよおすが、飲むにつれ、 夫婦間のうっせきが爆発し、教授夫人は夫の眼前で、若い助教授を誘惑、ひわい極まりない性的悪ふざけを演ずる― わずか4人がくりひろげる愛と憎悪の物語だが、ズバリ、セックスを意味する "Screw You" "Up Yours'" といった 露骨な言葉が存分に飛出すショッキングな作品である。
 "劇中のラブシーンがあまりに性行為そのもののイミテーション過ぎる" とキリスト教夫人連盟が強く抗議し、 アメリカでの公開までには幾多の波乱があったが、「テーラー、バートンの見せた演技はこれまでの最高だ」 (ニューヨーク・タイムス紙)、「出演者の力演はまさにスクリーンを圧倒」(ニューヨーク・デーリーニューズ紙)と 高く芸術性が評価され、封切られるや、ニューヨークをはじめアメリカ主要都市では興行収入の最高記録を打ち立てた。
 原作はテネシー・ウィリアムスに続くアメリカ劇壇の鬼才として評判高いエドワード・アルビーのヒット劇で、 先ごろ日本でも上演されて話題を呼んだから、ショックと悲惨な笑いにみちたこの劇の内容については御存じの方も多いだろう。
 リズの役どころは教授夫人だが、その夫になるのが、実生活でも彼女の最愛の夫君リチャード・バートン。 「いそしぎ」についでの夫婦共演というわけだ。若夫婦になるのは「名誉と栄光のためでなく」「キング・ラット」 「愚か者の船」で目下人気急上昇中のジョージ・シーガると、ニューヨーク劇壇若手女優中の最有望株サンディ・デニス。
 監督のマイク・ニコルスは、ブロードウェイですでに第一級の名声をもつ鬼才で、それが映画初仕事だが、 たった4人きりの出演者からおのおの最高の演技を引き出した彼の才腕は、 ハンド・カメラを駆使したハスケル・ウエクスラー(アメリカ・アメリカ)の撮影、壁も床も自由自在に動かせるように設計された リチャード・シルバートのセット・デザインなど技術面での数々の新機軸のなかにも、みごとな成果となって現われている。
 製作は「ウェストサイド物語」や「王様と私」の名脚色者として知られたアーネスト・リーマンで、 今回の脚色ももちろん彼自身の担当。
 リズ・テーラーとサンディ・デニスの衣裳デザインを受けもったのは「王様の私」「ウェスト・サイド物語」 「クレオパトラ」でアカデミー賞を立て続けに受けているアイリン・
シャラフ。音楽は「クレオパトラ」のアレックス・ノース。
 撮影はマサチューセッツ州ノーサンプトンでの大学町ロケのほか、ワーナー撮影所第8ステージに 関係者以外一切立入禁止という厳しい報道管制をしいて行なわれたが、天与の美貌をかなぐり捨てて、髪をグレイに染め声をつぶし、 睡眠不足とアルコール中毒におかされたヒロイン役に体当りするリズの鬼気せまる名演とともに、 ハリウッドの芸術的水準の最高を見るべき映画として、これはまさに絶好の作品である。

 <梗概>  ときは現代。舞台はアメリカ、ニューイングランドの小さな大学の構内に建てられた住宅。時間は、土曜日の深夜―― というよりも日曜日の明け方といったほうが正確だろう。
 この大学で歴史学の教師をつとめているジョージと、妻君のマーサが、パーティで飲み疲れた体をもて余しながら、 なおも陽気に浮かれた足どりで帰ってくる。
 2人とももう中年の終り。白髪の目立つ髪、シミの浮き出た肌はアルコール中毒と睡眠不足にすっかり荒らされて、 マーサの顔にはかつての美貌の跡かたもないが、夫のジョージを尻にしく横柄な物腰と痛烈な言葉つきだけは、 結婚生活18年目のいまも一向に変りない。
 マーサの父親はこの大学の総長だ。学者としての見識や才能よりは学校経営者としての処世術のうまさで、 この大学をここまで立派にした父親は、自分の後継者にふさわしい男を早くから探していた。もう十数年以上も昔のはなしである。
 マーサは父親を愛していた。母親に早く死なれて父の手ひとつに育てられた彼女にとって、 父親こそは理想のタイプの男性であった。女子大2年のとき大学の庭番と猛烈な恋愛をしたこともあったが、 無理に仲をさかれて父親のもとへ帰ってからは、まるで妻のようによく父に仕えたものである。だから彼女が、父親の気持をみたすため、 大学の後継者にふさわしい男と結婚しようと思ったのも無理からぬ話。
 そこへ現われたのがジョージであった。彼は若々しく知的で、歴史学に燃やし続けている純粋な情熱が何よりもマーサのハートをとらえてしまったのである。
 ところが幻滅は結婚して二、三年もたたぬうちにやってきた。学問に対する情熱だけが唯一の取りえで、 ジョージには総長としての才腕にも人間的な魅力にも欠けていたのである。幻滅はやがて軽蔑に、そして憎悪にかわった。 アルコールの味をおぼえたマーサの口からは、夫への嘲笑と侮蔑の言葉しか吐かれなくなった。 彼への愛情さえもマーサはサディスティックな言葉と行為でしか表現できなくなってしまったのである。 ・・・
    (131分)

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