旅 路

<Separate Tables>  (58年)

<スタッフ>
製作
 監督
原作戯曲
 脚色

撮影
美術
音楽

<キャスト>
ジョン・マルカム
シビル・レイルトン・ベル
ポロック少佐
アン・シャークランド
ミス・クーパー
レディ・マセソン
レイルトン・ベル夫人
ミス・ミーチャム
ファウラー氏
チヤールズ
ジーン

ハロルド・ヘクト
デルバート・マン
テレンス・ラティガン
テレンス・ラティガン
ジョン・ゲイ
チャース・ラング
エドワード・カレア
デヴィッド・ラスキン


バート・ランカスター
デポラ・カー
デビッド・ニーブン
リタ・へイワース
ウエンデイ・ヒラー
キャサリン・ネスビット
グラディス・クーパー
メイ・ハラット
フェリックス・エイルマー
ロッド・テイラー
オードリ・ダルトン
 「旅路」は現代英国劇壇の第一線劇作家で、映画「愛情は深い海の如く」 「王子と踊子」の原作者として知られるテレンス・ラティガンのロンドン 及びブロードウェイのヒット舞台劇「Separate Tables 別々のテーブル」 を、ラティガン自ら、ジョン・ゲイトと共同で脚色し、「ヴェラクルス」「空中 ぶらんこ」「深く静かに潜航せよ」などのヘクト=ヒル=ランカスター・プロ(H=H=L)が映画化した 1958年度作品である。
 イギリス海峡に臨むさびれたホテルを背景に、そこに集まる人々の互に交錯せる 心理のあやを写しながら、実は孤独そのものの人間の赤裸な姿を描くこの映画は、 往年の名画「グランド・ホテル(主演グレタ・ガルボ、ジョオン・クロッフォード、ライオネル・バ リモア、ジョン・バリモア)」を思わせる豪華なキャストを揃えている。早くから大きな期待を寄せられて いる所以である。            ’
 すなわち、デポラ・カー、リタ・へイワース、テビッド・ニーブン、バート・ランカスター、 ウエンデイ・ヒラーのスター陣はもとより絢爛豪華の一語に尽きるが、傍役にも、 グラディス・クーパー、キャサリン・ネスビット、フェリックス・エイルマー、メイ・ハラット、 ロッド・テイラー、オードリ・ダルトン、プリシラ・モーガンと云った舞台、映画、TV各界の ヴェテラン格俳優を網羅しており、まさに1959年度劈頭隋一の期待作としてその貫録を如実に示している。
 監督はH=H=L・プロの「マーティ」でTVから映画界に入り、一作にしてアカデミー監督賞を受けた 俊才デルバート・マン。製作も同じく「マーティ」でオスカーを獲得したハロルド・ヘクト。 「旅路」の原作舞台劇はもと「窓際のテーブル」と「七番テーブル」の2篇に別れていたもの だが、背景はいずれもイギリス南海岸のパーンマス。
 撮影は風景撮影のために分遣隊が英国へ派遣されたのを除いて、総てハリウッド のサウンドステージに作られた、見るからに英国ヴィクトリア朝風の内外観を備 えた本建築並のセットで行われた。
 映画中のホテル名はポーリガード・ホテルだが、撮影関係者からは<ハリウッド・ボーリガード・ホテ ル>又は<ヒルトン・ボーリガード・ホテル>などと、愛称された。
 このホテルは撮影に使用されたばかりか、キャストの撮影中の宿泊、食事にも用いられた。 主要出演者には<ハリウッド・ボーリガード・ホテル>内に個室が与がられ、食事は総てハリウッドの有名な英国風レスト ラン<ブラウン・ダービー>と契約し、三度三度運び込まれた。
 これは単なる "遊び" ではなかった。一つ屋根の下に暮す人々の微妙な人間心理のあやを最も効果的に描 き出すためには、出演者は日常生活を共にし、コンスタントな雰囲気と調和を維持するべきだと云う、監督 デルバート・マンと、H=H=L・プロ主宰者の一人としてのランカスターの一致した意見からだった。 キャストは撮影の2週間前こ召集され、演劇風のリハーサルを行った。尚「旅路」の撮影中、デポラ・カーは ニューヨーク映画批評家協会から<1957年度最優秀女優賞>を受賞、<フォートプレイ>誌からも演技賞 を与えられている。
 <物語>  イギリス海峡に臨む海岸町ボーンマスの古ぼけた小さなホテル「ボーリガード」―ー。
 霧の深いある冬の夕方、そのホテルの外の街路で、シビル・レイルトン。ビルは何日ぶりかでポロック少 佐に逢った。彼等の話しぶりには、2人がどちらも孤独な魂をもち、友人として―ー或いはそれ以上の親 密さで、相手を求めている様子がありありと見えていた。
 少佐の態度には快活げなひらめきが見えるのだが、話しぶりには、神経質な処があり、その会話のと切れ には、内心の思いが深い憂愁に沈んで行くような折々が見えた。
 少佐はふと、自分の不在中、何か噂話が出なかったかと心配げにきいて、シビルの顔を眺めた。が、自分 の質問の理由もわからないらしいシビルの様子に、安心したように話題を変えた。
 シビルの方にも打明けることはあった。彼女が恥かしげに切出したのは、新聞広告で電話交換手の適当な 口を見つけたが、就職などと言うとすぐ嫌な顔をする母に口ぞえしてほしいと言うのである。
 やがて夕食を報せる銅鑼が鳴り、この陰気な建物の住人達が食堂に集まった。
 ホステスの座についたのは、切れ者で気立もよいが、取すましすぎた処のあるホテルの経営者クーパー嬢で ある。
 滞在客は、シビルの母で、見るからに冷たく横柄なレイルトン・ベル夫人。おしゃぺりで愛想がよい が、レイルトン・ベル夫人の前では手も足も出ない、貴族の出のレディ・マセソン。ぷっきら棒でがさつで. 個人主義で、何時も「競馬新聞」を手放さないミーチャム嬢。昔、教鞭をとっていた頃の思い出だけに生き、 約束だけで一向に訪ねて来ない教え子を、来る日も来る日も待っているファウラー氏。医学生のチャールス。 その恋人で、ホテルの退屈な明け暮れには倦き倦きしているが、結婚して束縛されるのはなお嫌と言うジー ン。そして、いつも地方新聞に夢中になっては食事におくれて来るのがアメリカ人の作家ジョン・マルカム である。ようやく入って来たマルカムの、酒のせいか普段よりも多少ふらふらする足どりで現われ乍ら、非 難めいた眼付は一切許さないと言った顔には、人生について、酷薄な性格を身につけた男の暗さが潜んでい た。その彼に献身的な愛情を献げてくれるのが、ホテル経営者のクーパー嬢で、マルカムも彼女に結婚を 申込んでいた。長い孤独の生活に慣れ切っていたクーパー嬢にとっても,マルカムは唯一人の心を許した話 し相手であった。が彼女は何時の日かマルカムの昔の女がやって来て、彼を取返して行くに違いないと、そ れを惧れて承諾を渋っているのであった。
 レイルトン・ベル夫人は、唯でさえ気弱な自分の娘が神経の持病のあるのをいたわるどころか、二言目に は「発作をおこすよ」といじめては快感を味わっているという冷酷な女である。シビルの方はまた、おどお どするばかりで、母の言いつけは鵜のみにするという娘であった。・・・     (分)

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