ニュルンベルグの戦犯 13階段への道

<Der Nurnberger Prozess>   (57年独)

 この映画は、裁判の記録を軸として展開します。各被告の陳述にあわせて、1933年(ナチス政権獲得)から 45年(敗戦)までの12年間、ナチの電撃戦から、ヨーロッパでの制覇、スターリングラードの、攻防戦、 連合軍の総攻撃、ベルリン陥落とドイツの降伏までの移り行きを大づかみに見せてくれます。
 そして、この映画は、攻防戦のうしろにある、戦争の残酷さ非情さをあばき出します。 だからこれは、世にいう裁判映画とも、戦争映画とも申せません。この映画は、その大部分が、 交戦各国に秘蔵された未公開の撮影・録音材料によって、ドイツの急激な発展と崩壊、 そして独裁グループの野望とあわれな運命を物語るショッキングで、ドラマチックなドキュメンタリー(記録映画) であります。
 この映画の「主演者」は、二十数名のA級戦犯です。

 この映画は、ジョー・J・ハイデッカーとヨハネス・レープのレポートにもとづいて、 (「ミュンヘン画報」連載)フェリックス・フォン・ポドマニッキーが構成しました。 ベルリン公開に当っては上映妨害騒ぎなどがあり、パリ、ロンドン、ローマでも大変なセンセイションを まき起こしたと伝えられます。
 <梗概>  ★絞首刑の実写からはじまる――
 13階段――それはキリスト教徒にとって「死」を意味する。ドイツの戦争犯罪人が13階段をのぼってゆく。 のぼりきったところで、白い鉄帽のアメリカ兵が戦犯の首にナワの輪をまきつけ、高い十字架の上につり下げる。
 今から14年前の1946年10月16日の夜明け、紋首刑の実写からこの映画ははじまる。
 その前の年にイタリー、ドイツ、日本が降伏し、第二次世界大戦は終った。連合軍は、 戦争を起した張本人として、ドイツの政治家や軍人を捕え、国際裁判に掛けた。そしてゲッペルス航空大臣、 リッペントロップ外務大臣など11人に絞首刑を言い渡した。
 裁判はドイツの古都ニュルンベルクで開かれた。この都市で毎年ナチス党の大全が開かれたゆかりによるものである。 ナチスはヒトラー総統の独裁の下に、12年間ドイツ第三帝国を支配し、外国を侵略し、数百万の反対者を虐殺し、 全世界の憎しみの的となった政党である。
 世界で初めて、戦争を起したという理由で裁判にかけられる人たちがいならぶ。ローレンス親判長が質問する。 「君は自分を有罪と認めるか」。すると一人づつ立って答える。「いいえ、無罪です」と。
 だがこの人たちに罪はないのか! 映画は彼らが過去に行った圧政と残虐と侵略を一つ一つ見せて行く。 それは恐怖とショックの連続だが、一つのウソも誇張もない。ドイツ自らのものをはじめ、アメリカ、 イギリス、フランス、ソビエトなど各国からの実写フィルムばかり集めたからである。

 ★戦争犯罪人のやったことは――
 ヒトラー暗殺計画の容疑者が一言の弁明も許されずに死刑となる暗黒裁判、ヒトラーが 「自分はチェコスロバキヤを欲しない」と言った直後のチェコ堪撃、ポーランドの不意討ち、 無防備都市ロッテルダムの住宅街大爆撃にはじまるオランダ侵入、パリ入城、日本の松岡一外相と イタリーのチアノ外相をベルリンに招いた日独伊同盟の調印、白雪に覆われたロシア戦線突撃などの歴史的記録。
 スターリングラードの凄惨な市街戦の後にドイツ軍は、はじめて大敗を受け、 数十万の捕虜がモスコーの赤い広場を行進する。1944年6月、連合軍はフランス海岸に上陸し、パリ市民は銃を取ってレジスタンスに立上る。 今日のロケット兵器の元祖、Vl号とV2号の発射も空しくドイツ軍はじりじりと追いつめられ、その翌年4月、 ベルリン市内にソビエト軍が進入する。ベルリン陥落の前夜、ヒトラーは愛人のエファ・ブラウンと結婚式を あげた後に自殺した。ヒトラー自身が撮影し たエファ・ブラウンのありし日の陽気な姿も紹介される。
 幾千万の人たちを悲惨のどん底につきおとした大戦は終った。しかしドイツ国内を 視察するアイゼンハワー連合軍司令官を驚かせたのは、強制収容所の惨状だった。 ナチスは数百万のユダヤ人、ポーランド人、ソビエト人や反対党の人たちを強制収容所に入れ、みな殺しにした。 掘り出された死がいの山、生きたまま、むし殺しにしたかまど室、ガスで殺した室。死んだ人間の皮を集めたり、 帽子をハク製にした収容所の女所長もいた。死の寸前に肋けられた人たちも文字通りの骨と皮だった。
 この恐しいフィルムは裁判所の被告にも見せられ、彼等は自分たちの犯した罪に今さらながら目をそむけたのである。

 ★戦争裁判は終ったが――  裁判は終った。裁判長の絞首刑の言い渡しを無表情で聞く被告たち。その中で狂人を装うヘス副総統だけが 冷たく笑っている。
 もう一度、校首刑の実写。数千の人たちの見守る前で軍服姿のチェコ総督フランクが13階段をのぼる。 目かくしをされ、首にナワをかけられ、足元の台が外される。太鼓の音の響く中で――。 ′
 ゲーリング元師は刑の執行前に、かくし持っていた青酸カリで自殺した。片目をカッと見開いた死顔―― 生前の英姿はどこへ行ったのだろう。彼等は当然の償いをさせられた。しかし全世界の人たちにあたえた深傷は 永遠につぐなわれない。史上最大の虐殺戦争は、果して史上最後と言えるだろうか。
  (85分)

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