河は呼んでる<L'eau Vive> (58年仏) |
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<スタッフ> 監督 脚本・台詞 脚色 撮影 美術 音楽 <キャスト> オルタンス シモン 葡萄作り その妻 |
フランソワ・ヴィリエ ジャン・ジオノ アラン・アリュウ ポール・スリニャック ピエール・セベント パスカル・オードレ シャルル・ブラヴェット モンコルビエ ジェルメーヌ・ケルジャン |
原作者ジャン・ジオノと新進監督フランソワ・ヴィリエがこの映画の撮影に着
手したのは1956年の春であつた。アルプスからプロヴァンスへと流れを運ぶ
デュランス河と、そこに建設されつつあるダム工事の進行と平行して、湖底に沈
む運命を負わされた渓合いの美しい村々を背景とする大がかりな撮影である。 工事の始めから村が湖の底に沈むまでの実景を背景として取り入れつつ、一人の健 気な山の少女の成長を物語ろうとするこの作品には、数年の撮影期日が必要であ った。 注目のうちに始まつたこの撮影も月日がたつにつれて忘れられてしまっ た。それが3年を過ぎた58年、カンヌ映画祭の出品作として突然華やかな脚光を浴びて 浮び上ったのである。 この映画が、映画芸術に全く新しいジャンルを切りひらいたものとして異常な反 響をまき起したのは、長期に亘る撮影で捉えた雄大な自然描写と物 語りの特異性とが混然と一つにとけ合つて、美しい叙事詩的な雰囲 気を盛りあげているからである。 監督はジャン・ピエール・オーモンの弟、フランソワ・ヴイリエで、 短篇映画作家としての豊富な経験を十二分に生かして、ジオノの作品がもつ詩を 見事に画面に伝えている。 この映画の成功はシネスコの画面を圧する風景の雄大さと共に、 主役の少女パスカル・オードレの発見であろう。見事な演技である。3年前、18才の 無名の一少女だったオードレはヴイリエに見出され、まだ海のものとも山のものともつかない この映画の撮影中、更に1957年秋、「アンネの日記」の主役に抜擢されて モンパルナス劇場の舞台に立ち大成功を収め、映画よりも一足先に舞台で有名になつた。 小柄ななかにパリジェンヌらしい繊細なヒラメキをもったフランスの一番新しいスターである。 |
音楽は、ギターだけが、牧歌的単純さのなかにドラマチックな調べをかなでているのが
この映画の雰囲気とよくマッチしている。
作曲のギイ・ベアールは、モンマルトの有名なミュジヅク・ホール 「三匹のロバ」で歌っていた若い歌手で、この作曲で一躍有名になった。 この映画の主題歌も彼が歌っている。 <物語> アルプス山麓のオート・ゴルプ県のユバイという村で、ある金持の百姓が死ん だ。娘のオルタンスはただ一人の相続人である。オルタンスはまだ未成年だった ので後見人が必要である。叔父、叔母、従兄弟たち―デュランス河流域に住む 親類たちが我さきにユバイの村へ、オルタンスのところへ、彼女のものとなった 土地と農場へと押しかけてくる。 彼等のうち誰も無論悪人ではないが、誰もが目前の重大事件に度を失っていた のである。 それは、デュランス河の強力な水力発電工事が湖や工場やダムをこの流域につ くろうとしていること、ユバイを始めとして多くの部落が水底に没しようとして いること、失われる土地、救われる土地などの問題で、人々の心はごったがえし ていたのである。 そして、オルタンス叔父や叔母たちは、この際何とか貧乏から 縁を切ろうと、又あるものは河の開発事業で一儲けしようとしている。 オルタンスは土地を持っている。しかし、すでに買上げられていて やがて湖の底に沈む運命にあり、死んだ老人は3千万フランの賠償金を貰い受けた筈だが、 その金の行方は知れない、ということをオルタンスとその一族のものたちに公証人からきかきれる。 事情はどうあろうと、オルタンスは一族にとって幾分神秘的な金持の相続人であることに変りはなく、 みんなが彼女の恩恵にあずかろうとあせる。・・・ (96分) |