危険な曲り角

<Les Tricheurs>   (58年仏)

<スタッフ>
 監督
原作
 脚色

撮影
美術
音楽


<キャスト>
ミック
ボブ
クロ
アラン

マルセル・カルネ
マルセル・カルネ
ジャック・シギュール
クロ−ド・ルノワール
ポール・ベルトラン
ノーマソ・グランツ楽団
マキシム・ソーリー楽団


パスカル・プティ
ジャック・シャリエ
アンドレア・パリジー
ローラン・テルツィエフ
 いままで自分たちが育てられて来た道徳に従って若い人たちを育てようとする大人たちと、 そうした既成のモラルに反抗する青少年との対立は、どんな時代、どこの国でも共通の悩みとなっているが、 良識の国といわれるフランスでもその例外ではなく、とくに戦後、 青少年のモラルの問題がやかましく論議されるようになっている。
 この映画はそうしたフランスの青少年たち、とくに、パリのサン・ジェルマン・デ・プレのカフェの 根城として、スピードとスリルとセックスとにその日その日を送っているいわゆるハイ・ティーン族の 生態を描いたものである。原題の "Le Pricheurs" とは「欺く者たち」の意味で、 彼らは結局自分自身の率直な感情までを偽っているのだという監督カルネの批判がこめられているものと思われる。
 この企画はカルネが数年間考えていたもので、彼自身若い人たちとの交際を好むところから、 実際に彼らの生活を知り、それをもとにオリジナル・シナリオを執筆した。 「われら巴里ッ子」でカルネと協力した脚本家、ジャック・シギュールがここでも協力している。 また、最近の流行語などを大いにとり入れた台詞もシギュールの手に成ったものである。
 撮影、美術はそれぞれクロード・ルノワール、ポール・ベルトランなどの一流中の一流というべき 技術者が起用された。また、とくに音楽にはこうした題材にふさわしく、モダン・ジャズが全面的に用いられ、 アメリカの一流楽団、ノーマン・グランツのJATPの演奏によるオリジナル・ジャズの他に、 フラソス一のディキシー・スタイルのバンド、マキシム・ソーリー楽団が画面にもその姿を見せて、 名演を聞かせている。その他にほレコードによる音楽も多く 用いられている。
 出演者はいずれも明日のフランス映画を背負う新人ばかり。主役の4人のうち、パスカル・プティは 「サレムの魔女」「女の一生」で新人ばなれした演技を見せたピカ一新進女優だが、 その他のアンドレア・パリジー、ジャック・シャリエ、ローラン・テルツィエフの3人は いずれもこれがスクリーン・デビューというフレッシュ・スターたちである。そのほか、 この映画のために約百人のハイ・ティーンたちを特に募集し、パリの学生たちに大きな話
題を呼んだと伝えられる。
 また彼ら新人たちに混って、カルネ監督のお気に入りスター、ローラン・ルサッフル、 傍彼のベテラン、ローラン・アルモンテル、などが出演している。

 <物語>  ボブはサン・ジェルマン・カフェの座席にばんやり腰を下しながら、ミックの想い出に ふけっていた。あれほど愛し合ったミックと自分なのに。もうミックは想い出の中にしかよみがえってこないのだ。 青春のあやまちとうにはあまりに大きい犠牲だった……。 彼の脳裡にはミックに逢ったときのことがありありと浮ぶのだった。
 ある日、レコード屋をぶらついていたボブは偶然に一人の青年が一枚のレコードを盗んだのを 目撃したことから、アランと名のるその青年と意気投合し、彼らの巣だというサン・ジェルマン・デ・プレの カフェに連れて行かれた。そこには彼らと同じ20才前後の男女がとぐろを巻いていた。 煙草の煙、林立する酒壜、彼らの交わす奇妙な言葉。いわゆる良家の一人息子として育ったボブにとっては はじめて知る奇妙な零囲気だった。
 そんなボブを更にこの仲間に引き入れることになったのは、彼らの中での女王蜂的存在である女クロの 招待だった。その夜、彼女の家でお祭り騒ぎ″をやるというのである。ボブは好奇心もてつだって その集りに参加することにした。
 お祭り騒ぎ" とは、約百人ほどの仲間が集って、酒にダンスにセックスに青春のエネルギーを 爆発させる半ば定期的な集りだった。その夜、クロの家を訪れたボブは、その騒ぎのすさまじさに すっかり圧倒されながらも彼の感覚を酔わせるような奇妙な魔力に魅かれはじめていた。
 そのお祭り騒ぎ" のさなか、新入りのボブはクロに導かれて個室に入り、彼女の肉体の饗宴を受けた。 彼らの仲間にはいわゆる性的な倫理観念は全くなかった。彼らにとって性は快楽のためだけに存在するものなのだ。 愛とは笑うべき感傷でしかなかった。
「私ほ若いうちに若さをせい一ぱい利用するの……」クロの言葉にボブはいままで知らなかった人生が ひらけて来たような気がしたのである。 ・・・  (126分)

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