嘆きのテレーズ

<Therese Raquin> (53年仏)

<スタッフ>
製作

原作
 監督
 脚色
撮影
 音楽


<キャスト>
テレーズ・ラカン
  ローラン
  カミーユ
  水兵
  ラカン夫人
 

パリ・フィルム・プロダクション
リュックス共同制作
エミール・ゾラ
マルセル・カルネ
シャルル・スパーク
ロジェ・ユベール
モーリス・チリェ



シモーヌ・シニョレ
ラフ・ヴァローネ
ジャック・デュビイ
ローラン・ルザッフル
シルヴィ
 不幸な境遇にしばられたテレーズははじめて恋を知ったとき、意気地なしでエゴイストの夫を持つ 人妻であった。運送屋をしている恋人は野性の男性で、夫の友達であった。夫のペットで彼女ほ恋人と寝る。 階下には夫の母親が店番をしている。いつ昇って逢引の寝室にやってくるかも知れない。 恋の不安はやがて彼女を恐ろしい事件の自然の発展の中に捲き込んだ。
 だが、捲き込まれたものの、恋愛と性慾の流れに流されながら、生への執着にあがく 新しい女テレーズの姿をあたたかい血の通った人間として、監督カルネは同情もせず、 悲劇にも取扱わず、客観一本槍で押してゆく。
 「天井桟敷の人々」によって発揮されたカルネのたくましい描写力と適確無比な構成力は、 ここに至って完璧な傑作映画を生み出した。すさまじい情慾と心を砕く不安の人間の姿は、 終局に到って激烈な印象を我々の脳裡にたゝき込む。
 主演ば「肉体の冠」のシモーヌ・シニヨレ。彼女は今までの娼婦型から抜け出して、 悲劇的な環境と斗う新しい時代の女を巧みに演ずる。自分が墓穴を掘って、押寄せる時間に抗して 穴に陥らぬように苦しむ性欲的な女体を演じている。伊太利から招かれたラフ・ヴァローネもまた、 シニヨレの相手役として、荒削りな、女心に性本能を蕩きたたせる強い個性的な演技のひらめきを見せている。
 ロジエ・ユベールの渋く深味のある画調は、この映画の雰囲気をリアルに表現し成功している。 モーリス・チリエの音楽は、やゝメロディックで、映画の冷厳さに一抹の甘さを加えている。
 困に「嘆きのテレーズ」はエミール・ゾラの有名な小説「テレーズ・ラカン」である。 原名「テレーズ・ラカン」を映画題名とし、邦語改題して「嘆きのテレーズ」と呼ぷ。
 <物語>  リヨンのある町の薄暗い小路の奥に、マダム・ラカンは40年来小さな服他の店を営んでいる。 後家さんのラカン夫人の唯一の情熱の対照は息子のカミイユである。 彼女は、利己主義で虚弱な体質の息子のために、3年前にめいのテレーズを嫁に迎えた。 若く美しいテレーズは、結局この結婚の犠牲となったわけだが、彼女は黙々として 輿えられた運命に従った。そのため、いつも放心したような、夢の中に生きでいるような 陰気な女になってしまった。
 リヨンの貨物駅に勤めるカミイユは、ある日イタリア人のトラック運転手ローランと知り合った。 男は若々しく、屈強で、人を引きつける力があった。不思議なことに、自分の持たない魅力を 悉く身につけている若者にカミイユは心をひかれ、木曜日の夜のささやかな集りに彼を誘った。
 ラカン夫人と息子と、2人の友人、鉄道に勤めるグリヴェ氏と、元会計係のミショー氏のの4人は、 一晩中勝負事に熱中して云い争うのが、木曜日のラカン家の習慣であった。
 その夜、ラカン家に招かれたロラーンは一目でテレーズを愛した。 そして数日後彼はこの陰うつな環境から逃れようとテレーズに誘いかけた。
「一緒に逃げよう…たゞ黙って…何にもいわずに……」
 しかし彼女は尻込みした。長い忍従の年月が彼女を老婆と青白い夫に堅く結びつけていた。 それでローランの情婦になってからの彼女は、たゞもう肉体を燃す情熱の火でしかなかった。
 2人の恋人は、あらゆる危険を冒して忍び会った。嘘で固めた生活に耐えられなくなった 彼等は、カミイユに自分たちの恋を打ち明け、テレーズの離離を要求することを決めた。・・・  (107分)
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