スリ(掏摸)

<Pickpocket>   (59年仏)

<スタッフ>
製作
監督・脚本・台詞
撮影
美術
音楽

<キャスト>
ミシェル
ジャンヌ
ジャック
警部

アニー・ドルフマン
ロベール・ブレッソン
レオンス=アンリ・ビュレル
ピエール・シャルポニエ
J・B・リュリ


マルタン・ラサール
マリカ・グリーン
ピエール・レーマリ
ベルグリ
 この映画は「抵抗」の鬼オロベール・ブレッソン監督の最新問題作で、 先頃フランスの16名の映画批評家による第一回新しい批評″賞に於て、最優秀フランス映画賞を獲得した。
 内容は、若いスリが人のものを盗むという誘惑と斗いながら、その犯罪行為の 一種の魔術的要素に魅せられ、遂にその誘惑に打ち負けるまでの心理的な葛藤を描いたものである。
 「抵抗」でも伺われるように、ブレッソンの狙いは、外面的な事件の展開ではなく、 常に人間の内面的な動きに重点がおかれている。また、ブレッソンの作品に共通した特徴である スターや職業俳優を使わぬこと、声や音の効果の重要性、自作の脚本及び台詞によることなどは、 この「スリ」に於ても守られている。
 撮影には「抵抗」の老練レオンス=アンリ・ビュレルが当り、昨年6月22日、 パリの北停車場のロケーションから開始され、9月10日に完了した。
 出演者は前記の如くすべて素人である。主人公の若いスリ、ミシェルに扮するマルタン・ラサールは、 ソルポンヌ大学で政治学士の称号を受けた当年29才のインテリー青草である。 相手役の女性ジャンヌに扮するのはブルターニュ人の母とスエーデン人の父との間に生まれた16才の 清純マリカ・グリーン。その他、警部には文学数授のベルグリ、スリの母親にはこの映画の 女流プロデューサー、アニー・ドルフマンの息子が入っている寄宿学校の舎監であるスカル夫人などが助演している。
 なお、ブレッソンはこの作品について語っている言葉を要約すると、「スリ」は小さな題材だが、 私は小さい題材の方が好きだ。この映画は手と対象たる物とまなざしの映画である。 殊にまなざざしの映画であり、私が描きたかったのは、スルという行為の瞬間における スリの動作に見られる一種の魔術的要素である。勿論私としては、 このような非難されるべき行為を賞めているのではないが、映画におけるテーマなどというものは どうでもいいのではないでしょうか。私の興味をひくものは色々と点在する芸術的要素を 秩序立てて組み立てることである。「スリ」に於ても従来の作品と同じく、 私は飽くまで
演劇的手法を避け、在るがままをリアルに描いた積りである。」と述べている。

 <梗概>  ミシェルは貧乏な学生である。アルバイトでもしなければ学業はおろか生活すらおぼつかない。 そこで自活を思い立ち、ひとり病床に伏す母親を残して安アパートに一室を借りたが、 生来器用な手先きが却って禍いし、ただ何となく他人の懐から失敬しては生計をたてている。
 そんなある日、彼はロンシャン競馬場に出かけ、直ぐ前に立っていた中年婦人の ショルター・バッグから数枚の紙幣を抜き取るが、結局張り込み中の刑事につかまってしまう。 警部の取調べを受けた後、証拠不充分で釈放された彼は、何事も慎重が肝心と 友人のジャックに仕事口の紹介を依頼する。ジャックは小才の効く真面目な男で常々ミシェルのことを 心配している。
 翌日ジャックから貰ったメモを懐に出かけたミシェルは、地下鉄の中で新聞紙を利用して 巧みに財布を抜き取るスリを目撃し、その方法と手口に並々ならぬ興味をおぼえるのだった。
 部屋に駈け戻った彼は早速練習を繰り返す。比較的簡単だが確実な手口だ。 新聞をこわきに地下鉄に乗る。思ったよりうまく成功する。暫らくは毎日この手を使った。 無論路線は連日変更した。収獲は少なかったが、スル瞬間のスリルは大したものだった。
 素人ばなれしたミシェルの器用さはやがて職業スリの目にとまり、2人協同で稼ぎまくろうと話が決まる。 さすが腕自慢の男だけに、その職業スリの手口は実に見事だった。彼の指導でミシェルの腕は 格段の進歩を遂げた。しかしミシェルにも良心や羞恥心はある。ジャックや母、それに以前から 母の面倒を見ていてくれる美しい娘ジャンヌにだけは自分の生活を知られたくなかった。
 その後いくばくもなく母が他界した時、ミシェルは悲しみと後悔に二度と再びスリはすまいと 心に誓うが、3日後には矢張り仲間と組んでさかんに他人の懐中を狙っていた。 所詮他に生きる術を知らぬ男なのであろうか。
・・・  (76分)

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