ぼくの伯父さん<Mon Onkle> (58年仏伊) |
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<スタッフ> 監督 脚本・脚色・台詞 撮影 美術 音楽 <キャスト> 伯父さん アルペル氏 アルペル天人 息子 隣の女 |
ジャック・タチ ジャック・タチ ジャン・ブルゴワン ジオブク・ラグランジュ アラン・ロマン フランク・パルセリーニ ジャック・タチ J・P・ゾラ アドリエンヌ・セルヴァンチ アラン・ベクール ドミニック・マリ |
1958年のカンヌ映画祭で、世界中の話題を凌い、最高の栄誉を担った人は、ジャック・タチで
ある。タチは「祭りの日」と「ユロー氏の夏休み」の2つの作品でフランスでは
もう充分に有名だったが映画祭に「ぼくの伯父さん」を出品するに及んで、それこそ今
までに類のない映画作家として、熱狂的な讃辞をあぴた。
「ぼくの伯父さん」はたしかにタチだけがつくれる映画である。脚本から、監督から、演技から、 編集まで一人でやってのけるタチが、ながい間、あたためにあたためて釆た世界を、無類に楽しく、 あたたかく発酵させた作品である。楽天的で、どことなく牧歌的で、その上なんとなく物がなしい人生 の捉え方――それがタチの世界なのである。 「ぼくの伯父さん」とは、金持のアルペル家の一人息子ジュラール少年の伯父さんのことである。 タチはこの少年の目を通して、万事人工化され、機械化された超モダンな生活の味けなさ、無味乾燥さ を、ふんだんなギャグと笑いのうちに描いて見せる。そして、もう一つの生活、情緒と夢と自由をも った庶民の生活があることを、愛着とやさしさを籠めて我々に教えてくれる。日常生活の中からタチ はいくらでもある笑いを取り出しほほえましく、そしてどこか淋しい人生を描いてみせる。 超近代的と、古い伝統と――二つの世界を明確に対照させながら楽天的で、善良で、フランスてきな エスプリに溢れた詩人タチは、超近代社会の忙しさ、味気なさに閉口して、昔ながらのパリのほのかな 人情、どの人間にもつながる共通のかなしさを限りなく愛し、惜しむのである。 タチは単なる喜劇作家ではなく、喜劇よりももっと遠くを見つめる詩人である。だから、笑いと ギャグに満ちた彼の作品から、最後に我々の胸に残るものは、人生の一抹の淋しさ、もの悲しさなのである。 | <物語>
アルペル氏はプラスチック工場の社長で、最近すばらしく立派な邸宅を新築しました。超モダーン
な建築で、家具はエレガンスの粋をあつめ、すべてが電化され、特に台所は冷暖房完備の豪華なもの
です。庭も超モダーンで、煙草の灰をおとすことも出来ないほど美しく作られています。プラスチッ
クの管をつくるプラスチック工場もこの邸宅と同じようなモダーンな工場ですし、息子のジュラール
が毎朝アルペル氏の自動車で連れて行かれる学校も、成金の子供ばかりを集めた超近代的学校です。
息子はアルペル夫妻から可愛がられ、よそ目には全く幸福に暮していますが、こんな超モダーンな 世界は牢獄のように息苦しく、いつも退屈し切つて居ます。庭はあっても敷石づたいに歩くだけしか 出来ませんし、その敷石は美しい色に塗られているので、かかとできずをつけないよう爪先だけで歩 かなければなりません。自転車にも乗れず、木にものぼれず、芝生の上に寝ころぶことも出来ません。 庭にはしゃれた噴水があります。訪問客が門の呼びりんを押すと、アルペル夫人はその訪問客の格に応 じた高さに噴水の水を吹き上げさせます。もち論噴水の礼で迎えられるのは大切なお客だけで、伯父 さんなどはその資格がありません。 伯父さんは貧しい庶民街の小さな家に住んでいます。街の人はみんな親切で、喜びも悲しみも互に 分け合って暮しています。伯父さんはみんなに愛され、のんきに毎日を送っています。息子はこの伯 父さんが大好きでよく一緒に外出しては場末の町をぶらついたり、内緒話をしています。アルペル氏 はそれが不愉快です。 アルペル夫人も2人の様子が心配で、伯父さんは結婚して家庭をもち、職につかなければいけない と考えます。・・・ (117分) |