眼には眼を<Oeil pour Oeil> (57年仏) |
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<スタッフ> 監督 原作 脚本 脚色 台詞 撮影 音楽 シャンソン歌手 <キャスト> ヴァルテル ボルタク ボルタクの従妹 ロラ(キャバレーの女) 土民部落の喫茶店主 レストランの客 病院の助手 看護婦 |
アンドレ・カイヤット ヴァエ・カチャ アンドレ・カイヤット バエ・カッチャ アンドレ・カイヤット ピエール・ボスト クリスチャン・マトラ ルイギ ジュリエット・グレコ クルト・ユルゲンス フォルコ・ルリ パスカル・オードレ レア・パドバニ ダリオ・モレノ ポール・フランクール ロベール・ポルト エレナ・マンソン |
「裁きは終りぬ」「洪水の荊」と常に自らのオリジナル脚本にもとずいて、何らかの
社会的な問題を追究してきた理論派の名匠アンドレ・カイヤットが取り組んだ原作も
の。 フランス映画としても珍らしくスケールの大きい復讐ドラマである。カイヤット はこの中に彼一流の理論を織り込みながらも、復讐の執念に取りつかれた男が、相手を計 画的に荒涼たる砂湊に誘い込んで行く物語をサスペンス十分に描き、ことにクライ マックスにおける2人の鬼気迫る対決には、手に汗を握らせるほどの迫力をもり上げる など、こうした題材にもみごとな手腕を見せている。 原作はアルメニア生れの青年作家ヴァエ・カチャの同名の小説で、限には限を、 歯には歯を" という旧約出挨及記の言葉の一節をとり上げ、東洋人の立場から、 白人に対する宿命的な反感を背景に、結局、自分自身をも滅してしまう後手を描いて 現代社会への痛烈な批判を投げたもの。 1955年、この作品が発表されるや、カイヤットはただちに映画化を計画、 自ら原作に脚色を加え、原作者と共同でシナリオの執筆に当る一方、彼としてはじめての色彩、 そしてフランス最初のビスタビジョンを採用するという熱意を示した。 台詞は「青い麦」「赤と黒」「居酒屋」など、文芸作品を手がけては その右に出るものがないといわれているピエール・ポストが担当、 最小限の台詞で異常な緊迫感をもり上げるのに成功している。 またこれら文芸陣件に対して撮影に「女優ナナ」「鹿史は女で作られる」などのクリスチャン・マトラ、 美術に「巴里の不夜城」のジャツク・コロンビエなどそうそうたるベテラン技術陣が協力し、 更にシャンゾン界の大立物、ルイギが音楽を担当して、中東の回教国の異様な雰囲気をかもし出している。 また、有名なシャンソン歌手ジュリエット・グレコが、吹替えながちシャンソンを一曲唄っているのが印象的である。。 主演者はドイツ出身でこのところ仏、米映画界に大活躍の国際俳優クルト・ユルゲンス 及び「恐怖の報酬」に出演したイタリア出身の俳優フォルコ・ルリの2人。 これをたすけるはフランス新人女優中のビカーと目されるパスカル・オードレ、イタリア出身の中堅女優 レア・パドヴァニ、シャンソン界の変り種でこのところ映画出演も多いトルコ生れのダリオ・モレノ、 傍役のベテラン、ポール・フランクール、戦前戦後を通じてフランス映画界に活躍している 名女優エレナ・マンソンなど、堂々たる顔ぶ |
れの助演陣である。
なお、この物語の舞台は中東だが、主として政治的な事情により現地でロケが不可能になったので、 4万5千キロに亘ってヨーロッパ中をロケハンした挙句、南スペインの砂漠地帯に撮影に好適な場所を発見し、 ビスタビジョン・カメラの操作にヘリコプターを使用するなど大規模なロケを敢行して撮影したものである。 <物語> 人命をあずかる医師という職務が、甚だしく神経をすりへらし、肉体を駆使することはどこの国でも変りがない。 地中海にほど近い中東の一小都会トラブロスの病院に勤務するフランス人医師ヴァルテルも、 その日、勤めをを終えると、ぐったりするような疲労を覚えた。音楽会へ行く約束を断った彼は ただひたすら休息したかった。 だが、家へ帰り、寝室でくつろぎかけた彼は突然一人の男の訪問を受けた。 はげしい腹痛を訴えている妻を伴って来て、是非とも診察をしてくれというのである。 自分はもう十分に働いた。勤務時間は終ったのだ。それにこの自宅では何の手当もしょうがないではないか。 ここから自動車ならば20分はどで病院がある。そこへ行くがよい‥…。その男に会いもせずこう言って追いかえした彼は 窓から病人を乗せた車が立去るのを確めると、ベッドに疲れた身体を横たえた。 翌朝、ヴァルテルは病院へ行き、昨夜の病人が死んだことを知らされた。 宿直の医師が盲腸炎と診断したところが、子宮外妊娠だったため、手遅れで死んだのである。 ヴァルテルは暗い想いにとざされた。昨夜自分が診てやりさえしたら……。 ともすればのしかかって来るこの考えを、彼は必死にふりはらった。たしかに自分の勤めは 終っていた。その上、あの時にどんた手当の方法があっただろう。この女の死は不可抗力だったのだ。 彼はひそかに女の死顔を眺めたがら、こう自分に言いきかせた。 その夜、不安に悩む彼の神経をかきみだすように、深夜、電話のベルが鳴った。 だがヴァルテルが受話器をとり上げても何の声も聞えないのである。そんなことが何度か重なると もうヴァルテルも我慢ならなかった。 そして、居たたまれなくなって寝室を病院の宿直室にうつした翌朝、窓の前に例の病人を乗せて来た 青い旧式の車が停っているではないか…。 一体、誰が、何のために?・・・ (113分) |