フランス式十戒

<Le Diable et les 10 Commandements>   (62年仏伊)

 サイレント時代から、今日にいたるまで、数々の名作を世に送り、フランス映画界の代表的な監督として、 偉大な足跡をのこしてきた巨匠ジュリアン・デュビビエ監督が、昔から伝わるキリスト教徒の 十の戒め「十戒」のそれぞれについて独創的な考察を加え、色、欲などの誘惑に負けやすい人間の弱さを 現代風俗の中にえがき上げたもの。フランス映画らしい香気と豊かなエスプリにあふれた豪華作品である。
 内容は八つのエピソードに分かれ、それぞれを蛇の姿をした悪魔″の狂言まわしがつなぐという趣向。 ルネ・パルジャベル、アンリ・ジャンソン、ミシェル・オーディアール、パスカル・ジャルダンなど 一流脚本家たちの協力のもとに、デュビビエ自身、脚本を執筆している。
 出演者は現代フランス映画界の代表的なスターのほとんどをよりすぐった空前の豪華顔合わせ。 巨匠の演出のもと、人気第一のアラン・ドロンをはじめフランソワズ・アルヌール、メル・ファーラー、 ダニエル・ダリューなど新進、ベテランの一線級がずらり。いわば、フランス映画の総カを結集した大作ということができる。 デュビビエとしては、この映画が通算56本目の作品。
 撮影は前作「火刑の部屋」でもデュビビエをたすけていたロジェ・フェルー。八つのエピソードを通じて 新進のジョルジュ・ガルバラン、ギイ・マジャンタ、ミシェル・マーニュの3人が音楽を分担している。 (127分)
脚本・監督……ジュリアン・デュビビエ
台 詞…………ルネ・パルジャベル
          アンリ・ジャンソン
          ミシェル・オーディアール
          パスカル・ジャルダン
撮 影…………ロジェ・フェルー
美 術…………フランソワ・ド・ラモット
音 楽…………ジョルジュ・ガルバラン
          ギイ・マジャンタ
          ミシェル・マーニュ

なんじ神の名をみだりに呼ぶなかれ

ジェローム・シャンパール…ミシェル・シモン
司 教……………リュシアン・バルー
院 長……………クロード・ノエリ

 腹が立つと、"人は畜生め!" と叫びます。そうしたときフランスの人たちは 思わず "神もヘチマもあるものか" と言ってしまうのです。
 恵まれない晩年を修道院の雑用係としてすごしているジェローム・シャンパール老人の 口ぐせが、その "神もヘチマも……" なのです。
 なにしろ、十戒には「神の名をみだりに呼ぶなかれ」とあります。修道院という場所柄 どうにも具合が悪いのですが、若いときからの習慣とて、急に直るものではありません。 困ったのは院長尼です。・・・

なんじ姦淫するなかれ
なんじ結婚のほか肉の行ないを求むるなかれ

モリセット……………ダニー・サバル
ダンクール…………アンリ・ティゾ
ポロ…………………ロジェ・ニコラ

 十戒が悪魔に立ちむかう武器なら、悪魔が人間を誘惑する武器は……女。 ダンクール青年もその悪魔の化身に魅入られたひとりです。 赤や青のライトの中で妖しく波うつ女体の魅惑……。「タニア」それが女の名でした。
 彼はそのタニアの姿だけを見るためにクラブにかよいつめました。合計27回。 そして28回目の夜、彼の前に、タニアは姿をあらわしませんでした。 支配人室へとびこんで、聞き出したのは彼女の契約が切れたということ。 ああそれでは、もうあの美しい姿を見ることはできないかもしれない……、 とふと思った青年は、必死にタニアのアドレスをさがし求めました。 ・・・

なんじ殺すなかれ

ドニ・マイユ…………シャルル・アズナブール
ガリニー………………リノ・パンチュラ
珊 事:………………モーリス・ビロー
院 長:………………モーリス・ティナック
レストランの亭主……アンリ・ビルベール

 ひとりの女が河に身をなげて死にました。麻薬にむしばまれ、身体を売り、 そしてカつきたのです。彼女は最後の手紙と日記帳とを、修道院にいる兄に宛てました。
 遺書を読んだ兄ドニ・マイユは26才。
 神の掟にしばられながらも青春の血はおさえがたい。復讐は罪悪です。
 しかもなお、彼はその罪をおかそうと決心したのです。
 妹を死に追いやったのは街の顔役ガリニーです。
 女に麻薬を与え、売春婦に仕立て上げて、売りとばす……。
 そのガリニーが永遠に悪業を重ねることができないようにしてやるのだ……。 生命を賭けた復讐です。 ・・・

なんじ人の持物を欲するなかれ

フランソワズ…………フランソワズ・アルヌール
ミシュリーヌ…………ミシュリーヌ・ブレール
フィリップ……………メル・ファーラー
ジョルジュ…‥………クロード・ドーファン
宝石屋の男…………マルセル・ダリオ

 フィリップ・アランが、その恋人ミシュリーヌに高価な宝石を買 い与えたのは、いうまでもなく、別れ話を納得させるためでした。 手切金のつもりです。宝石とは悪魔が地獄の火でつくったといわれるだけあって、 女性には不思議な魔力を発揮するもの。フィリップはその力を、 こんどはミシュリーヌの友だちフランソワズにむけようと考えました。
 フランソワズは劇作家ポーフォールの妻。名声はあっても、 宝石にはあまり縁はありません。宝石屋でかいま見たすばらしいダイヤの ネックレスに限を奪われている彼女の心を、フィリップはいちはやく見ぬいていました。 ・・・

われはなんじの主なり
われを唯一の神として礼拝すべし

神 様…………フェルナンデル
祖 母…………ジェルメーヌ・ケルジャン
祖 父…………ガストン・モドー
少 女………‥グローディヌ・モージェイ
母 親…………ジョゼット・パルディエ
父 親…………ルネ・クレルモン

 雪におおわれたオーベルニュの山道をひとりの男が歩いてゆきます。 黒いマントにチェックの襟巻。一軒の家の庭に入って行った彼を可愛い少女が見つけました。 父母は畑仕事、祖父は足が悪くて歩けず、祖母は明日も知れぬ重病の床。 るす番の少女は見知らぬ男にたずねます。
「あなたはどなた?」 「神様だ」
 少女は澄んだひとみに驚きの色を見せてまじまじとみつめました。 少女の声を聞いて、身をおこしかけた老婆の顔には死相がありありと見えます。 苦労の連続だったその一生を終ろうとしているこのあわれな老婆にとって神様など 信じられるはずもありません。彼女は神様と名のる男に罵りの言葉をはきかけました。
 男は老婆にやさしく愛を説きました。・・・

なんじ 父母をうやまうべし
なんじ偽証するなかれ

ピエール…………アラン・ドロン
クラリス…………ダニエル・ダリュー
ジェルメーヌ‥…マドレーヌ・ロバンソン
マルセル…………ジョルジュ・ウィルソン
メルシエ氏………アルモンテル

 大学で医学を学ぶ青年ピエールの憂うつは、父と母の仲がわるいことです。 よくもまあ、朝から晩まで、相手の悪口が言えたものだと思うほど。くさった彼は、 とうとう父親に不満をぶちまけました。そのとき、父親がふともらし一言。
「あれは本当の母親ではない」
 ショックを受けたのはいままでそんな事を考えてみたこともない純真なピエールです。 その上、本当の母親は、いまや舞台にテレビに大活躍の名女優グラリス・アルダンだと 聞かされて、頭へ来た青年はすぐにパリへとんで行きました。もちろん、 本当の母親クラリスに会うためです。・・・

なんじ盗むなかれ

ディディエ…………ジャン・クロード・プリアリ
バイヤン……………ルイ・ド・フェネス
ジャニーヌ…………アルマンド・ナバール
刑  事……………ノエル・ロクベール
教会の女……………ドニーズ・ジャンス
銀行の頭取…………ジャン・ポール・ムリノ
浮 浪 者……………ジャン・カルメ
警  官……………ガプリエロ

 ディディエ・マランは、いうなれば現代青年の典型みたいなもの。ガメツクて、 図々しくて‥‥というわけで、つとめ先の銀行のお偉方にすこぶる評判がよろしくない。 今週いっぱい、すなわち、本日をもってクビを申しわたされてしまいました。
 折しもその日、例の窓口で最後のご奉公をつとめていた彼の前にあらわれた小柄な男。 ピストルをつきつけて型通り、
「ゼニを出せ」
「いくらいる?」
「そりゃそうだ。失礼」
 ディディエ君は顔色をかえるでもなく、いっしょになってバッグに 金をつめこんでやりました。 ・・・

なんじ安息日を聖とすべし

ジュローム・シャンバール……ミシェル・シモン
司 教……………リュシアン・パルー
デルフィーヌ………マドレーヌ・クレルパンヌ

 十戒を憶えるという大へんな仕事を背負わされたジュローム老人は日曜日も大わらわ。 司教さんと2人で、テーブルを中に、さかんに "十戒" をやっています。 その相手はブドー酒。
「おーい、酒だ!」
そのたびに家政婦のデルフィーヌは台所へ行ったり来たり。 今日は安息日。何もしないで、神にささげる日のはずなのに……。
 これでは、いったい何のために十戒を憶えているんだかわかりせせん。・・・

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