恋多き女<Elena et les Hommes> (56年仏) |
||
<スタッフ> 監督 原案 脚色 撮影 美術 音楽 <キャスト> エレナ ロラン アンリ ロロット ミアルカ |
ジャン・ルノワール ジャン・ルノワール ジャン・ルノワール ジャン・セルジュ クロオド・ルノワール ジャン・アンドレ ジョセフ・コスマ イングリッド・バーグマン ジャン・マレエ メル・ファラー マガリ・ノエル ジュリエット・グレコ |
かつて「どん底」「大いなる幻影」などの名作をものし、ジャック・フェーデ亡き後、寡作ながら
フランス映画界第一の名匠の名をほしいままにしているジャン・ルノワールも、前作「フレンチ・カ
ンカン」にも見られた通り、最近は専らユーモアとエスプリたつぶりに物語を展開するスタイルを採
用しており、彼自ら "フアンテジー・ミュジカル" と銘打ったこの「恋多き女」はその傾向を最もよ
く表したものといえよう。
ルノワールはこの中で現在への痛烈な諷刺をこめて、野心に彩ら れた人間の滑稽さ、偽善のむなしさを戯画化し、それと対照して、 人生最大の真理である恋愛を高らかに謳歌している。 、 ルノワール監督の甥で、「フレンチ・カンカン」や「ピカソ・天才の秘密」に於いて 色彩映画撮影面の無類のうま味をみせた名手クロオド・ルノワールが絢爛たる色 彩撮影を駆使して当時の華やかな雰囲気を展開すれば、ジョルジュ・オーリックと並んで フランス映画音楽界の二大巨匠と称せられるジョセフ・コマスがこれまた数々の 美しいメロディをもってよき時代のパリ情緒をふんだんに盛りあげている。 女主人公のエレナには「追想」でアカデミー賞をとった欧米映画 界のナンバー・ワン、イングリッド・バーグマンが扮して、フランス映画初出演を飾り、 プーランジェ将軍を思わせるロラン将軍を「忘れえぬ慕情」のジャン・マレエが、 その友人で結局エレナと結ばれるアンリに、このところ大活躍の米国俳優メル・ファラーがそれ それぞれ扮している。 | <物語>
今世紀の初頭、まだ "ベル・エポック" といわれるよき時代の空
気が残っているパリでのことである。
折しも革命記念日を迎えて巷の賑わう7月14日の朝、ポーラン ドの公爵夫人エレナ・ソロコフスカかは若い無名の作曲家リオネル の訪問を受けた。その朝、自作のオペラがミラノのスカラ座で上演 されることになったという通知を受取ったリオネルは早速エレナに このことを知らせて正式に結婚を申込むために彼女を訪れたのである。 しかし、彼の成功を知ったエレナは、今までこの作曲家に示した なみなみならぬ好意のほどを全く忘れ去ったかのように、その申込みには 見向きもしなかった。 エレナはロシア軍の祖国への侵入とともに叔母のオルガを伴って パリに亡命して来た未亡人ながら貴族らしい気品を漂わせた輝くばかりの 美貌はその暗い境遇にいささかもそこなわれることなく、 見る男性の心を強くとらえずにはいなかった。 その彼女のたった一つの情熱、それは他人の役に立つということだった。 彼女は他人に偉大な仕事をなしとげるだけの力を与える女神と自ら信じて、真剣な 助力と純粋な愛情を捧げるのである。しかし、 一たびその相手が成功し、目的を達すると忽ち興味を失い、平然として彼らを 捨て去ってしまうのだった。 リオネルに別れを告げたその日、彼女にかねてから求婚していた富裕な靴製造業者 マルタン=ミショオに急に承諾を与えたのも、常に家計の不如意を嘆いていた叔母の オルガを恵めようと思ってのことだった。・・ (99分) |