七つの大罪

<Les 7 Peches Capitaux>  (52年仏)

 これは、いくつかのエピソードの組合せからなる、いわゆるオムニバス映画の代表的作品である。 聖書に記された七つの大罪をテーマとする各エピソードを、仏、伊の一流監督が競作しているが、 その内容は聖書の意味するところは別におよそ軽妙洒脱をきわめたもので、その豪華な顔触れと共に 最近のフランス映画随一の話題作である。

 この映画では、おなじみのジェラール・フィリップが盛り場で球投げの客引きの口上宜しく、 各エピソードをつなぐいわゆる狂言まわしの役を勤め、第一話だけ貧慾と憤恕の二つのテーマが 一緒に組合されている代わりに、第七話として「第八の罪」というオチが加えられている。

 第一話・欲ばりと怒りの罪
原作:エルヴェ・バザン
脚色・台詞:シャルル・スパーク
監督:エドゥアルド・デ・フィリッポ
 <配 役>
クラリネット教授ゼルミニ:エドゥアルド・デ・フィリッポ
家主アルヴァロ:パオロ・ストッパ
その妻:イザ・ミランダ

 貧乏なクラリネット教授ゼルミニは、因業家主アルヴァロから 2ヶ月の家賃1万5千リラを払えと強談判されたあと偶然家主の10万リラ入りの財布を拾った。それを見ていた青年を 巧みにごまかしつつ持主の処へ返しに出かけると、強欲なアルヴァロは謝礼もせずに財布を取戻した。
 処がこの時アルヴァロは細君に美容院代をせがまれて夫婦喧嘩の最中。 彼女の首からちぎれ飛んだ真珠の一粒がゼルミニの靴に入ってしまったとは気付かなかった。 ヒステリィを起した細君は、怒りにまかせて夫の手提金庫を街にぶちまけてしまい、 ひとり帰るゼルミニは自分の靴の中に家賃にあまる宝をみつけ出したという次第。

 第二話・怠けものの罪
脚本・台詞:カルロ・リム
監督:ジャン・ドレヴィル
撮影:アンドレ・トーマ
音楽:ルネ・クロエレック
 <配 役>
天国の行政官聖ピエール:ノエル・ノエル
怠惰の女神:ジャクリーヌ・プレシス

 今や天国では地上から送られて来る死人の激増にすっかり音をあげている。これは地上に文明が発達しすぎた結果、 戦争やあわただしい日常生活であまりにも性急に人のいのちがスリ減らされるためだと、 怠惰の女神を下界へ降すことになったが、効果は誠にテキ面、 地上では誰一人マトモに働こうとはしなくなってしまった。
 火事にも消防夫は出ず、まち街にはバナナの皮が散り、 あらゆる工場はサボタージュという有様に、主(しゅ)は改めて行政官聖ピエールを地上に派遣、 怠惰の行き過ぎを是正させて、やっと秩序を取戻した。地球はもと通りの繁栄にかえることだろう。

 第三話・色好みの罪
原作:バルベイ・ドールヴィリー
脚色・台詞: ジャン・オーランシュ、ピエール・ボスト
監督:イヴ・アレグレ
撮影:ロジェ・ユベール
音楽:ジョルジュ・オーリック
 <配 役>
宿屋のマダム、ブラン夫人:ヴィヴィアーヌ・ロマンス
その娘シャンタル:フランセント・ヴェルニヤ
画家ラヴィラ:フランク・ヴィラール
牧師:モオリス・ロネ

 祭りの日、村の司祭は13歳になる宿屋の娘シャンタルから妊娠したと聞かされた。 相手は宿屋に泊る美男画家ラヴィラ(フランク・ヴィラール)だという。司祭は驚いて娘の母ブラン夫人 に知らせた。夫人が画家ともども問いつめたところ、娘は画家のすわった椅子に すわったので妊娠したと信じ込んだことが判った。
 その夜、問題の椅子をみつめたラヴィラとブラン夫人の気持は妖しく動き、 ――そしてその部屋で鳴りつづけるレコードが一つ溝を循環しはじめたのを真先に聞きつけたのはシャンタルであった。 彼女は堂々と2人の部屋に入って、あわてて飛起きた母と男を尻目にレコードを止め、唇を噛みしめたまま夜の闇の中へ 消え去った。

 第四話・ねたみの罪
原作:コレット・ウィリーの「牝猫」(La Chatte)
脚色・監督: ロベルト・ロッセリーニ
撮影:エンツォ・セラフィン
音楽:イヴ・ボードリエ
 <配 役>
カミュ:アンドレ・ドバール
画家オリヴィエ:オルフェオ・タンブリ

 イタリア人画家オリヴィエはフランス女カミュと新婚3ヶ月、 そして 彼は昔から真白な牝猫サラを寵愛していた。ひたすら夫の愛を独占したい若妻カミュはこの猫が嫌いだった。 この猫がつねに2人の仲をみつめ、夫の愛も猫の方に傾きすぎると思われたからである。或日、夫の留守中、 彼を想いつつ精魂こめて作りあげようとした料理の肉を、彼女はサラに盗まれた。
 ついで夫の絵に助言してすげなく拒まれた時、内攻していた彼女の嫉妬は爆発した。 彼女はカッとして猫をテラスに追いつめ、猫は遥か下の街に落ちた。運よく瀕死のサラを拾って帰って来た夫は、 はじめて妻の恐ろしいねたみを知った。2人の間には決定的な破局があるだけだった。

 第五話・大喰らいの罪
脚本・監督:カルロ・リム
撮影:ロベール・ルフェーヴル
音楽:イヴ・ボードリエ
 <配 役>
アンリとアントナン:アンリ・ヴィダル
百姓:ジャン・リシャール
百姓の妻:クローディーヌ・デュピュイ

 ブリッジの席上、食いしんぼうの男爵夫人をみたアンリは、祖父アントナンの話をしてきかせた。 ――アントナンは田舎医者だったが、或夜人里はなれた野原で自動車が故障し、 一軒の農家に宿を求めた。百姓夫婦は快く彼を迎え、 自製のチーズを御馳走してくれたが、そのうまさは類のないものであった。
 さて寝る段になって、 3人はたった一つのベッドに妻君を真中にして横になったが、夫はすぐさま大いびきをかき出す。 さあどうぞとアントナンを促す女房の誘いに、好機至れりとアントナンは戸棚のチーズに突進した。

 第六話・見えっぱリの罪
脚本:ジャン・オーランシュ、ピエール・ボスト
監督:クロード・オータン・ララ
撮影:アンドレ・バック
音楽:ルネ・クロエレック
 <配 役>
アンヌ・マリイ:ミシェル・モルガン
その母パリエール夫人:フランソワーズ・ロゼー

 名門の誇りを持ちながらも、パリエール夫人とその娘アンヌ・マリイは 今や人目を忍んで公園の薪木を拾うほどの落ぶれ方だった。 或日街で会った旧友から舞踏会に招待すると言われた時には、 まだ社交界から見捨てられてはいないと思い込むことも出来たが、
 しかし正式の招待状はついにやって来なかった。アンヌ・マリイは自尊心を傷けられながらも一張羅の服を着て出席した。 パーティの席上、一婦人が指輪をなくしたと騒ぎ出した。浮かれた客達は面白半分に参会者の身体検査をはじめたが、 頑として許さなかったのはアンヌ・マリイであった。全員の眼が異様な皮肉でこの招かれざる客に集中した時、 アンヌ・マリイは自分のハンド・バッグを投げ出して一人席を蹴った。開けてみると、 中から転がり出したのは母へ土産に食卓からかすめたサンドウィッチやケーキであった。 主催者の謝罪をよそに、アンヌ・マリイは堂々たる威厳をもって邸を去った。

 第7話・第八の罪
脚本:レオ・ジョアノン、ルネ・ウェレル
監督:ジュルジュ・ラコンブ
撮影:ロベール・ルフェーヴル
音楽:ルネ・クロエレック
 <配 役>
画家:ジェラール・フィリップ

 深夜、いかがわしい造りの家に、カーディナルと水兵がタクシーで乗りつける。 地下室へはいると、そこには裸の黒人、中国人、極度に背曲りな小人、売春婦、 ストリップ・ティザアが曰くありげにたむろしている。彼らは何をする人達なのだろう?  ――実は画家が「七つの大罪」のポスターを描くモデル達なのである。...

inserted by FC2 system