狂乱のボルジア家

<Les Nuits de Lucrece Borgia>   (59年仏伊)

<スタッフ>
製作
監督 原作
脚本

脚色
撮影
音楽

<キャスト>
リュクレス・ボルジア
フレデリック
アストーレ
セザール・ポルジア

カルロ・カヤーノ
セルジオ・グリエコ
マリオ・カヤーノ
アルド・セグリー
オードレ・タべ
マッシモ・ダラマーノ
アレクサンドル・ドレビットスキー


ベリンダ・リー
ジャック・セルナス
アルノルド・フォア
フランコ・ファプリーツィ
 この映画は、中世イタリア史に悪名高いセザール・ボルジアと、 才智と美貌の持主である妹リュクレスにまつわる陰謀を背景に、 剣と恋の波瀾万丈の半生を描いたものである。
 ボルジア家は、世界的に知られる家系の一つで、この家系にまつわる秘話やロマンスは、 古来から多くの書物に書かれている。その背景となっているイタリア・ルネッサンス期は、 不安と混乱の時代であった。セザールは自分の計画を遂行するための手段として、 刃物や毒薬を用いて容赦なく敵を倒し、また、妹のリュクレスの美貌も、 武力によって制覇できぬ勢力家を味方にするために、政略結婚によって嫁がせることに躊躇しなかった。
 セザールのこうした政策は、−応の成功をおさめ、大領主となって地方のボスに痛めつけられた領民を解放し、 土地改良などを行って信望を得たが、1503年父である法王アレクサンドル六世が没すると、 背後の大きな支柱を失った。そして、新法王ユリアス二世が敵方の勢力圏であったので、 セザールは忽ち投獄されてしまった。後に脱獄して妹婿であるナバール王に保護されたが、 1507年に戦死した。
 以上が大略の時代的背景であるが、「ボルジア家」は、娯楽映画としての要素を充分に 兼備えた題材故に、「ボルジア家の毒薬」など今までにも数回映画化されている。 このたびは、類稀なる美貌で、次次と男を操ってゆくリュクレスに焦点を合せて、物語は進展してゆく。   .‥‥).‥r巨:」.…邑
 主演のリュクレスには、「ボルジア家の毒薬」のマルチーヌ・キャロルとは、 また変わった新鮮な美貌と肢体で独特な雰囲気を持つペリンダ・リーが扮している。 最近作には、「デッドロック」「少年が知っている!」「今晩おひま?」がある。 セザール・ポルジアにはイタリア映画の演技派スター、フランコ・ファプリーツィが扮する。 最近作には、「ローマの女」「崖」「青春群像」「大運河」などがある。 その他「トロイのヘレン」の二枚目ジャック・セルナス、 「非情」の女中役で印象的なエロティシズムを発散した新人女優ミシュール・メルシエ、 「ボルジア家の毒薬」のアルノルド・フォア等が共演している。
 監督はセルジオ・グリエコが担当している。彼は1917年1月15日、イタリアのコデビゴに生れた。 幼年時代に両親とともにフランスに渡り、在学中には、絵画にズバ抜けた才能のひらめきを示し、 数回絵画コンテストの賞金を獲得している。卒業後は、前衛映画のジェルメーヌ・ラックの助手をつとめたが、 後に彼の一家は、あげてソ連に移住したので、彼はニコライ・エックの助監督となった。帰伊後は、 映画の編集や撮影の助手となり、脚本も書いた。また、彼は芸術的な意欲にもえ、ルキノ・ビスコンティ監督の 「妄執の影」やジュゼッペ・デ・サンティス監督の「荒野の抱擁」の助監督をつとめて、 演出技術を学んだ。1950年、監督に昇進してからは、「お前が俺の生命だ」等々次々と多くの娯楽作品を 発表し、その職人的で独特な作風は高く評価されている。
 <梗概>  15世紀末のフィレンツェで、仮面をかぶった一人の騎士が、数名の刺客と切り結んでいる。 その場を通りかかったフレデリックは、ただちに剣をふるい、騎士の危急を救った。 騎士は無言のまま、指にはめていた大きなルビーの指輪をフレデリックに差出し、風の如く立去った。
 それから3年後のある日、ウルピノヘ行く街道に、従者ジャコポと共に道を急ぐフレデリックの姿があった。 この時、「助けて!」という女の叫び声。見ると、街道を駈けて来る黒装束の騎士の一団の中に、 もがき続ける美女の姿がある。乱闘数刻、めざましい主従の働きに、騎士たちは尻尾をまいて逃げ散った。 美女は厚く礼をのべると、素性もあかさず、ビアンカと名前だけ告げて駈け去った。
 街道筋の酒場へ立寄った主従は、貴人が従えた騎士のひとりに、いわれもなくからかわれた。 若いフレデリックは激して、剣をぬけと相手に迫った。相手も腕には覚えがあるとみえ、 勝負は容易につきそうもなかった。その闘いぶりを暫く見ていた貴人が、にわかに2人をとめた。 そしてフレデリックの指に光るルビーを、自分の指にはめたルビーと較べてみせた。 それは揃いの品と思えるほど、よく似ていた。貴人は、フレデリックを自分の命の恩人として一同に紹介し、 自らはバレンシノア侯、セザール・ポルジアと名乗った。その名前を聞いてフレデリックは驚いた。 自分が仕官を願おうと思っていた侯国の主だからである。 彼はその志を述べ、こころよく受け入れられた。
 その夜、侯国の宮廷では、スペインから来た若い貴族ドン・ミゲルを迎える饗宴が開かれた。 イタリア統一の野望を抱く兄セザールのよき片腕として、妹のリュクレス・ポルジアは、 その美貌と才気を政略の具に供することを惜しまなかった。その夜の彼女の役目は、 もとよりドン・ミゲルの懐柔にあった。だが兄の連れてきたフレデリックの凛々しい姿を見るや、 彼女はドン・ミゲル接待を兄に任して、フレデリックの顔を惚れ惚れと眺めた。 妖婦と言われるリュクレスは、嘗て男を愛したことがなかった。だがフレデリックの姿を見た一瞬から、 彼女の心に愛が生れた。歓楽の一夜が明けかかる頃、侍女の手引きでフレデリックを自室に呼んだリュクレスは、 その美しい身体を彼の愛撫にまかせた。
 ある日、街を歩いていたフレデリックは、いつか自分が助けた美女ビアンカが 陋屋から出てくるのを見かけた。彼女はしきりに先を急ぐらしく、「ダラダラ街道のサン・フォスタン墓地へ 今夜来て下さい。合音葉はディアーアです。これは私の命のかかった秘密です」と言い置いて姿を消した。 この時、2人の立話を物陰からうかがっている騎士たちがいた。その中には、街道筋の酒場でフレデリックと剣を交えた アレクサンドルもいた。リュクレスに横恋慕していた彼は、彼女の寵愛がフレデリックに傾いたことを恨んでいた。
 その夜、フレデリックは、半信半疑のまま、ビアンカに言われた通りに墓地へ行った。 ・・・  (113分)

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