幸 福 (しあわせ)

<Le Bonheur>   (65年仏)

<スタッフ>
製作
監督
脚本・台詞
撮影

音楽

<キャスト>
フランソワ
テレーズ
エミリー

マグ・ボダール
アニェス・バルダ
アニェス・パルダ
ジャン・ラビエ
クロード・ボーソレイユ
W・A・モーツアルト


ジャン・クロード・ドルオー
クレール・ドルオー
マリー・フランス・ポワイエ
 幸福(しあわせ)。あまりにありふれた言葉でありながら、あまりに漠然と曖昧な言葉。
 ここに、パリ効外に住む若い夫婦がいる。2人の子供を持ち、 日曜日には家族そろってピクニックに出かけられるような、平凡だが幸せな毎日。 その夫が、ある日新しい女性を愛してしまう。彼は、幸せな家庭を捨てるつもりはない。 「新しい幸福がひとつふえただけなんだよ」、彼は自分にも妻にもそういいきかせるのだったが……
 そんなシンプルで日常的な物語のなかに、<幸福> の正体を鋭く追求して、 65年度のルイ・デリュック賞及びベルリン映画祭審査員特別賞を受賞した秀作である。
 監督は、女流アニェス・バルダ。「5時から7時までのクレオ」以来、 2年間の沈黙を破って放った作品だが、技法的にも格段の成熟を見せ、なによりも女性だけが持つ極度に繊細で、 同時に驚くほど大胆な感覚が、そら恐ろしいまでの緊迫感として画面に張りつめている。 そして、「私は印象派の絵画を前にした時の感動をよぴおこすような、そんな色彩映像を作りたかった」と バルダ監督がその意欲を語った色彩画面は、文字通り斬新、ユニークで、この作品の重要な要素として パリの批評家、ジャーナリストから絶賛されている。
 出演は、若い夫婦にジャン・クロード・ドルオーと、クレール・ドルオー。 実生活でも2人は夫婦であり、ジズーとピエロという役名で出演している2人の小さな子供も、 彼等夫婦の実際の子供。まことにイキの合った家族全員の出演なのである。 ジャン・クロード・ドルオーの方は、テレビの「チェリー・ラ・フロンド」という人気番組の主役だが、 妻のクレールの方はズブの素人。「是非夫君と子供たちと一緒に出演して下さい」と、 幾度もバルダ監督にくどかれた末、生れてはじめて映画に出たという。さらに、 第二の女性として登場するエミリー役に、「接吻・接吻・接吻」「ダンケルク」の マリー・フランス・ボワイエといったところが、主だったキャスト。
 製作は、「シェルブールの雨傘」(ジャック・ドミー監督、 バルダ監督の夫君であることはよく知られている。)で、64年度のルイ・デリュック賞を凌った女流プロデューサー、 マグ・ボダール。バルダ監督の助監督も女性であり、大げさに言えば女ばかりで製作した映画とも言えよう。 なお、撮影はジャン・ラビエとクロード・ボーソレイ
ユ、音楽は全篇にわたってモーツアルトの旋律が使用され、独得の効果を上げている。

 <梗概>  初夏の森には色とりどりの美しい花が咲き乱れ、若草が背高く生い繁っていた。 フランソワが気持の良い午睡から目ざめた頃、晴れ渡った日曜日の陽はすでに傾いていた。 小さな娘のジズーは妻のテレーズが手を引き、もっと小さな男の子ピエロはフランソワが肩に乗せて、 一家は家路についた。いつもと同じように、平和で喜びにみちたピクニックの休日は終り、 習日からはまた、波瀾のない勤勉な新しい週が始まるのだ。
 フランソワは、パリ郊外のフォントネの町に家族と一緒に住み、叔父の経営する小さな木工場で働いていた。 取りたてていうほどの道楽も持たぬごく平凡で実直な若者であり、妻と2人の子供を心から愛していた。 今日が昨日の続きであり、明日も今日の続きであるような、起伏の少ない生活のリズムに身をゆだねながら、 時々自分のことをひどく幸せ者だと感じていた。
 フランソワにとって新しい事件が起ったのは、近くの町バンサンヌまで仕事で出かけ、 電話をかけるために郵便局に立ち寄ったときだった。受付けの娘は、彼がフォントネに住んでいることを知ると、 近く自分もフォントネに転勤になるはずだと話した。きわだった美人というわけではなかったが、 何故かフランソワはその娘に好意を感じてしまった。それは、 フランソワにとっては全く新しい事件の始まりだったのが、あまりに日常的な出来事だったので、 フランソワは自分でも全くそのことに気がつかないぐらいだった。
 二度目に会ったとき、フランソワは娘とレストランでコーヒーを飲んだ。娘の名前をエミリーといい、 フォントネで部屋を見つけたので、転勤も自分の方から願い出たのだという。フランソワは、 彼女のために本箱と戸だなを作ることを約束した。
 まもなく、エミリーはフォントネに越して来て、フランソワははじめて彼女の一人住いの部屋を訪ねた。 彼は益々彼女に引きつけられ、彼女の方も彼を愛していた。エミリーはフランソワに家庭があることを知っていたが、 2人はほとんど何の不自然さも感じず、その日一緒にベッドに入った。・・・   (79分)

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