洪水の前

<Avant le Deluge>  (54年仏)

<スタッフ>
監督・脚色
脚色
撮影
音楽
装置


<キャスト>
リリアヌ
  ジャン
  フィリップ
  ダニエル
  リシャール
 

アンドレ・カイヤット
シャルル・スパーク
ジャン・ブルゴワン
ジャン・ジャック・グリューネンワルド
ジャック・コロンビエ



マリナ・ヴラディ
ジャック・シャバッソール
クレマン・チェリ
ロジェ・コジオ
ジャック・ファイエ
 1954年カンヌ映画祭で国際大賞を得た作品で、「裁きは終りぬ」の亘匠アンドレ・カイヤットが監督した問題作である。脚
 脚本はカイヤットとシャルル・スパークが協力して書きおろしたもの で、 「裁きは終りぬ」(51年ヴェニス映画祭グラン・プリ)「われわれは皆殺人者だ」 (52年カンヌ映画祭特別賞)につぐ作品であるが、現代の無批判な世相、エゴイズムの殻に閉じこもった 親たちの家庭生活を鋭く突き、こうした時代、家庭の中に成長しつつあるティーン・エイジャーの 心理的危機、無鉄砲な彼等の行動をカイヤット一流の鋭い批判の目を以って描き出したもので、 異常な波紋を世界に投じた作品である。
 現在の青少年が何を考え、何を求めているのか、それは大人の理解を越えた謎である。 混屯たる現代の不安が彼等の青春を洪水のように押流そうとしている。 世界を破滅に導こうとするこの恐るべき洪水を喰い止める事が出来ないのか。 カイヤットはこの問題を我々の前に大きくかかげているのである。
 主演の青年群は「埋れた青春」で確実な演技を示したジャック・シャパッソールをはじめ、 今後のフランス映画界をになう新人揃いで」清新な感覚にあふれた好演をみせている。
 中でも少女リリアヌに扮するマリナ・ヴラデイは、この「洪水の前」で54年度シュザンヌ・ビアンチェッティ賞を与えられたもので、 この映画に出演した時はまだ15才の少女であった。 しかしその見事に成長した美しい姿体とエキゾチックな美貌は洋々たる前途を約束しているといえよう。
 助演者には「われら女性」のイザ・ミランダ、「二百万人還る」のベルナール・プリエ、 「裁きは終りぬ」のジャック・カステロ、「現金に手を出すな」の新人デリア・スカラが出ている。
 <物語>  ダニエル、ジャン、リシャール、フィリップの4人の少年に、リリアヌという女の子をまじえた 5人は仲のよいグループである。
 ダニエル・エブステンは孤児である。両親はナチの収容所で死んだが、ダニエルは アメリカに亡命した叔父の仕送りで不自由なく暮している。          l一
 ジャン・アルノオは母一人子一人のつつましい暮しで、母アルノオ夫人は一人息子に すべての夢を托し、彼の些細な行動にまで口やかましく干渉する。 彼女は息子がダニエルと仲良くしている間は、当分恋愛問題で頭を悩ますことはあるまい、と考え、 2人の友情をよろこんでいる。
 リシヤール・デュトワは音楽家の息子だが、父デュトワ氏は一本気な性格から戦争中独軍の怒りに 触れ、5年間辛い刑務所生活を味った。そして戦争が終って10年間というものデュトワ氏は 折に触れて民族的な憤怒に身をふるわせるのである。そのため家庭は暗く、極度に困窮していた。 リシヤールはリリアヌを愛していた。
 リリアヌは教授の娘であるが母がなく、兄はコミュニズムの運動に熱中し、父と顔さえ合せれば 政治上の意見で衝突している。こうした2人の間にあってリリアヌは全く孤独である。 ある夜、コミュニスト達の示威運動に巻込まれて警察に連行された父教授は、真夜中を過ぎて 帰った我が家にリリアヌのいない事を知り愕然とする。
 その頃、リリアヌはシャールと一緒に夜露にぬれた河べりのベンチで、幼い恋をささやきあっていたのである。
  フィリップの父ブッサール氏は大金持だが、財産だけが大切で妻が自分の友人で女たらしの ジャック・モンテッソン氏の誘惑に負けていることすら知らずにいる。戦後フランスを見舞った経済危機の 悪夢からいまだに覚めきれないブッサール氏は、親譲りの農地を豪華なヨットと交換してダカールに 出発する。・・・ (140分)
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