欲 望<Blow-up> (66年英伊) |
||
<スタッフ> 製作 監督 脚色 撮影 美術 音楽 衣裳デザイン <キャスト> ジェーン トマス パトリシア フェルシュカ |
カルロ・ポンティ ミケランジェロ・アントニオーニ ミケランジェロ・アントニオーニ トニーノ・グエラ カルロ・ディ・パルマ アッシトン・ゴートン ハーバート・ハンコック ジョスリン・リッカーズ バネッサ・レッドグレープ デビッド・へミングス セーラ・マイルズ 彼女自身 |
「愛の不毛」「現代の孤独」「無への絶望」などをテーマに、優れた映像をスクリーンに生み出した
イタリーの天才監督ミケランジェロ・アントニオーニが、イギリスのMGMロンドン撮影所で始めて製作した最新作である。
「情事」「太陽はひとりぼっち」「夜」「赤い砂漠」など従来のアントニオー二の傑作は何れも、 イタリー語で製作されたが、今度の作品は、彼には始めての英語版である。 常に現代の人間の孤独な魂を、映像で表現するアントニオーニは、 この作品でロンドンの年若い一人の職業カメラマンを主人公に、明日に何の希望も抱かず、 ひたすら瞬間の刺戟や、快楽を求める疎外された現代の若者たち――イギリスではモッズ族と彼等は呼ばれているが ――の心理や衝動に鋭いメスを入れ、驚くほどの刺戟的な描写を見せてくれる。 此処でも彼は、飽くまでもその純粋な芸術的立場を崩さず、セックス・シーンを強烈にスクリーンに描き出した。 このためアメリカで公開された際、日本の映倫に相当するMPAAがこの映画の審査に承認のマークを与えることを拒否した。 しかし配給会社であるMGMは、アントニオーニ作品の芸術性を損なうことに反対し、MPAAに抗議し、 ノーカットのままアメリカ国内の配給を強行した。この行為は、ニューヨーク・タイムズの批評家ボスリー・クロウザーを始め、 多数の識者の支持を得、またニューヨークを皮切りに各地で公開された際、何れも大ヒットの好結果を得ている。 この作品でアントニオーニは本年度アカデミー監督賞にノミネートされている。 また、アメリカでの映画評も、前記のニューヨーク・タイムズを先頭に、各紙が筆を揃えて、 アントニオーニの新作に絶讃を浴びせている。これはイギけス、フランス、イタリーでも同様で、寡作のアントニオーニは、 この作品でまた新しくその声価を高めている。 この映画のストーリーは、アントニオーニが、アルゼンチンのフリオ・コルタザールの短篇小説に想を得て、 自ら書き下したもので、シナリオ製作に当って、アントニオーニ自身が、彼の協力者であるトニーノ・グエラと共同で脚色している。 (グエラは、アントニオーニの「情事」「太陽はひとりばっち」「夜」「赤い砂漠」の作品で何れも脚色に参加している) 撮影は、「赤い砂漠」でアントニオーニとコンビを組んだ名手カルロ・ディ・パルマで、 今度もアントニオーニ作品独得の美しい色彩を利用した芸術的映像の創作に努力している。 ロケーションは、ロンドン街頭や公園を中心に行なわれ、アントニオー二の指示でできるだけセット撮影は避けられた。 また音楽は、アントニオーニの希望により、特に作られたバックグラウンドミュージックを利用せず 画面になるべく自然音をとり入れ、迫力をもりあげている。しかし、全般的な音楽の監督をハーバート・ハンコックが担当している。 この映画で美しいファッション・モデル達が着る最新の衣裳や、登場人物の服装は、 ファッション界のヌーベル・バーグの一人であるジョスリン・リッカーズによってデザインされている。 彼はユナイト映画「ナック」で思い切って新しいミニ・スカートのファッションを発表し、パリを始め世界中を驚かせたデザイナーである。 製作は「ドクトル・ジバゴ」を作ったイタリー出身の大プ |
ロデューサー、カルロ・ポンティ(ソフィア・ローレンの夫)。
主役の若いカメラマンを演じるのは、イギリスの新進二枚目デビッド・へミングスで、彼はロンドンの演劇畑で活躍中に認められて MGM映画「悪魔の日」(未輸入)に出演のチャンスを得、これがアントニオーニに抜擢されるきっかけになった。 この映画で重要な役を得た結果、彼はその確実な演技力と好ましい風貌から第二のテレンス・スタンプとして 今後の成長が期待される注目の新人である。 また女性の重要な役に、1967年度の最も期待される新女優と騒がれているバネッサ・レッドグレーブが起用されている。 彼女は昨年(66年度)カンヌ映画祭で主演女優賞を獲畑得し(英国映画「モーガン」の演技で)、 現在はワーナーのミュージカル大作「キヤメロット」の主役に抜擢さされている。イギリス出身の大物女優ジュリー・アンドリュース、 ジュリー・クリスティの後を追う最も有望な新人女優である。 その他、「素晴らしきヒコーキ野郎」「脱走計画」などに出演したセーラ・マイルズ、 国際的に有名なファッション・モデルのフェルシュカらが、それぞれ活躍している。 <梗概> ハンサムなロンドン児のトマスは、20才の若さで、早くも名声を得ている職業写真家だ。 彼はたいへんな行動主義者で、あるときは汚れた労働者の群に入って報道写真を撮ったり、 あるときは、ヌードモデルを刺戟して、素晴らしくセクシーなポーズをとらえたりする。 またあるときは、チェルシーにある彼専用のスタジオで美しいファッション・モデルたちを使い、 商業写真の撮影に熱中してるという活躍ぶりだ。 然し、スタジオでの仕事がないとき、この大都市ロンドンのモダンで魅惑的な、 熱っぽい生活を、こっそり隠し撮りして歩くのも楽しみの一つだった。 殺風景な労働者たちの無料宿泊所から、緑豊かな静かな公園まで、彼はカメラの被写体を求めて行動するのだ。 これは彼の趣味であり、娯楽でもあった。美しいモデルたちや、商業写真のいろいろな制約は、 唯、彼を疲労させるばかりだから。 ある土曜日、彼に近づいてくるいかれた短かいスカートの女の子たちを相手にせず、 彼は気晴らしのため休日の人通りのない街を、ローバーの新車で飛ばしていた。 そして車を廻した彼は、郊外にある一軒の古道具屋に入った。何か適当なオブジェはないかと探すためだったが、 別に気に入るものはなかった。 古道具屋の前に、緑したたる美しい公園があった。トマスは散歩がてらにぶらりと入ってゆくと、 一人の魅惑的な少女が、好色そうな中年の男と戯れていた。やがて2人は手をとりあって木蔭のほうに歩いて行く。 トマスは見えがくれにあとをつけた。すると2人は、人目がないと思ったらしく、抱きあって接吻した。 瞬間、トマスは純粋な職業的興味から、いつとはなしに2人を撮影していた。 男は写真を撮られたことを知ると、いち早く姿を消した。然しその美しい少女は、 一心にトマスのフィルムを取り返そうと彼に迫る。 トマスがそれを拒むと、突然少女は逃げ出してしまった。彼はフィルムを現像するためにスタジオへ帰った。 だが彼女はトマスの住所をつきとめて、彼が作業を始める前に、此処に姿を現わした。 ・・・ (112分) |